第9話 犯人現る!!

「それでお前は一人で何をしているんだ?」


「セツナを探しに来たんだよ!」


 おかしな話だと閏はため息をついた。


「ほっておけばいいじゃないか。ブービートラップが無ければお前は普通の部屋だろう。街で噂されているような不気味な部屋でもなくなる。むしろ居なくなってありがたっ!!?」


 バシンッ!! 頬をひっぱたかれたと気付いたときにはユナの瞳は涙で濡れていた。


「な、なに」


「馬鹿!! 家族が居無くなったのにありがたいわけないじゃない!! セツナが居なければ普通の部屋だからなに!? セツナが居てくれて不気味な部屋で十分ユナは幸せなの!!」


 じんじんと痛むのは頬ではなく、胸に空いた古傷の方だった。


『家族が居無くなったのにありがたいわけないじゃない!!』じんじんと、雪が降り積もるようにしんしんと、懐かしい光景に灰が振りかぶってくる。


 部屋にトラウマを抱えたのはあの日からだ。母親が殺されたあの日の光景が思い出されて、閏は自分の部屋が持てなくなった。


「今の音なに!? 美也!! そこにいるの!?」


 少女の声が聞こえたと思ったら誰かが階段を駆け上がってくる。


『やれやれ、この学園は夜でも騒がしいな』


 ズダダダダと物凄い足音を立ててやってきた少女は閏たちの前で仁王立ちした。


「あなたたち!! さては探検者ね!! あたしを仲間に加えなさい!!」


 なぜ……? ツインテールの髪を揺らす少女は臆することなくユナに近づき手を握った。


 少女の後ろにはライフルを構えた棺型の召喚獣の姿がある。しかもこのライフル、形状はバレットM82。


 使用されるのは12.7x99mm NATO弾である。普通の小銃や狙撃銃の弾丸として使用される7.62mm弾と比較すると重量があり、射程も長い。弾道の直進性も良く、長距離射撃の際に空気抵抗や横風などの影響を受けにくく速度低下が少ない非常に殺傷力に優れた弾丸を放つライフルである。


 何が言いたいかと言うと、御式商店出張所の前で威嚇射撃されたときに撃たれた弾丸と同じだ。


(犯人は犯人で間違いないだろうが、魔導具の事件には関係なさそうなんだよな……)


 しかし、考えているとユナは少女に手を引かれて階下に連れ出されていく。


「閏~!! ユナ怖いよ~!」


 涙目のユナを放っておくわけにもいかず、閏と麦虎も階段を下った。


 連れて行かれたのは御式商店出張所の前だ。今はシャッターが下りている。


 ユナの手を離した少女はこちらに振り返ると腰に手を当てる。


「あたしは五組の七瀬(ななせ)ことり。御式美也の親友にして将来の伴侶よ」


 なんとなく、最後の言葉で男子のみ威嚇射撃される理由がわかった気がする。


「あんたはあたしの放った弾丸を目で追って正確に避けていた。その確かな目とこの超絶美少女天使様を選んだ芸術的センスは疑いようもない事実。だから、あんたの腕を見込んで頼みがあるの」


 これからお願いされることに芸術的センスは何一つ役に立ちそうもないと言い切れる。


「俺は四組の時十閏です。一応、話だけは聞きますよ。何があったんですか?」


 ことりは目を伏せると慎重に言葉を選んでいるようで、少し間を開けてから話し始めた。


「美也は最近、心ここにあらずって感じで様子がおかしかったの。原因はわかってる。美也が子供のころから大切にしていた大事な召喚獣の相棒を殺されたせいよ」


 あの不審者を不審者とも思わない態度は普段とは違って調子が悪かったのか。


「召喚獣を殺された? 実戦にでも出たのですか?」


 しかし、そうではないと、ことりは眦を吊り上げた。


「志島よ! あいつ本当に最低な男よ! 男というだけでもう最下級の最底辺なのに、あいつの最低ラインはもはや底なし沼の底に溜まった汚泥ね!」


 全世界の男が泣くぞ。


「ユナはどこのラインですか?」


 ことりの眼差しは一瞬で聖母のような慈愛に満ちた眼差しに変わった。


「大丈夫よ。可愛い名前ねユナちゃん。女の子は生まれたときから天使と決まっているの」


「わぁ~い!」


 生まれたときから部屋だと思うが、どうでもよすぎて水を差す気分にもなれない。


「俺は路傍の石でも全然構いませんので、話を続けてもらえますか」


 ことりは意外そうな顔をして閏の方に振り返った。


「あら、謙虚なやつは嫌いじゃないわ。そうね、志島には気をつけなさい。あいつは自分が一番でないと気が済まないのよ。少しでも召喚士として才能のある人を見れば、自分の召喚獣をぶつけて潰してくる。美也も被害者のうちの一人だったわ」


 沈むことりの声とは対照的に、麦虎の声は弾む。


『ほう、面白い話だな。志島久志という男、確かな目を持っているということだ』


 閏は眉をしかめた。


『麦虎が志島を褒めるのは面白くないな。どうしてそう思うんだ?』


『貴様を排除しようとしていただろう。他の生徒の目には無能に見えていた貴様の本来の資質を、少なくとも志島だけは感じ取っていたということだ』


 そう言われると、その可能性も無くはないが、単に性悪という可能性も十分にある。


「それで、俺に頼みたいことというのは?」


 話の本題に入ってもらわなければ対処のしようがない。


「……三時間前のことよ、美也が『見ると死ぬ部屋』を見てみたいと言い出したの」


「まさか夜の学校に一人で?」


「あたしも一緒に行ったわよ! というか止めたわ! でも、本当に中までは見たりしないって、ただ、あの子のそばに行きたいからって、言う、から……」


 途切れ途切れになってしまう言葉の奥には親友の行動を止めきれなかった後悔があるのだろう。


「……死の一番近くに行ってみたい。そういうあの子の感傷を止めることは出来なかった。そして、美也はいなくなった。……あたしは、裏切り者なのよ」


(裏切り者……?)


 よくわからなかったが、御式美也が三時間前から行方不明なのは本当のことだろう。


「一緒にいたのに、美也さんを見失ったということですか?」


「そうよ。最初はあたしが校舎の中を見て回ると言ったの。美也にはここで待っててと言った。ところが、一階を見て回って何もなかったことを確かめてここに戻ると美也はいなくなっていたのよ」


 確かめたいことは二つある。


「美也さんは普段から一人で勝手に行動するような方ですか?」


「違うわ。何かあったら必ずあたしに相談してくれる。一人で勝手にいなくなるなんて、美也に何かあったとしか思えない!」


 この言葉は本当だろう。普段から単独行動が目立つようであれば、ことりもここまで心配しないはずだ。


「では、最後に。夜の校舎で誰かを見たり、何か異常を感じましたか?」


 こちらの質問の方が重要である。


「いいえ、誰も見なかったし、何も無かった。ユナちゃんの声が聞こえるまで何も無かったわ」


 閏はしばらく考えていたが、ちらっとユナの方を見る。まだ目元は涙の跡が残っていた。


「ユナ、お前の部屋から出た先は異空間に繋がっているのか?」


 プルプルとユナは首を横に振った。


「ユナ自体は次元を超えて存在できるとはいえる。例えば幅の狭い廊下の上にユナの部屋を置くことは出来るの。だけど、ユナから出たらそこは廊下だよ。ユナは異空間に繋げられない」


 やはり、ユナも異空間から追い出された身なんだなと納得した。


「俺たちも、ユナの家族を探しているんです。だから、全てお話しますので、ことりさんの方こそ俺たちに協力してもらえませんか?」


 パッとユナの表情が華やいだ。


「閏……!」


「いいわ。美也が見つかってもユナちゃんの家族探しは最後まで協力する。話して」


 礼を言うとわかっている範囲での事情を話した。


「はぁ!? あんたが魔人!? この天使ちゃんが邪神の残した魔導具!?」


「まぁ、そういうことです。魔導具というものは仕掛けられたブービートラップも含めて魔導具と呼べます。つまり、回収する命令を受けた俺はセツナも見つけなきゃならない。それで」


 続きを話そうとしたが、ことりの勢いで遮られる。


「『見ると死ぬ部屋』の正体がユナちゃんなら美也は無事よね!?」


「今はセツナがいないから、ユナを見ても無事だったよ」


 ユナが明るく答えると、ことりも安心したのかほっと胸をなでおろす。


 閏は咳払いすると、改めて続きを口にした。


「それでだな、異空間には迷いのある者しか入れないと、慧眼な若者から聞いたんだ。そこで、迷いのある教師を先頭に立たせて異空間に入ろうと思うのだが、教師という立場にありながら精神がブレっブレの問題ある大人に心当たりはないだろうか?」


「あるわ。こっちよ」


 あるのか……。自分でもそんな教師いるのかと半信半疑で提案したのだが、ことりは即答だった。


 ことりは本校舎から出て、隣に建つ教師の研究所などが入る教官用の別舎に堂々と入っていく。この建物はコンクリート製の無味無臭な四角いつくりから、見栄えを考えられていないとわかる。ようするに人を誘い込む要素が無いから普段は入ってもらいたくないのだろう。


「ところで、異空間って一体なんなのよ?」


 ことりの疑問は当然に答えるべきだと考えた。


「魔界とこちらの世界の中間と言えばいいのかな。普通、肉体を持っていると迷い込んだとしても勝手に追い出されてこちらの世界に戻ってくることが出来る」


 ちなみに夜だというのに各部屋からは煌々と明かりが漏れていた。


「でも、迷いがあるとその異空間に閉じ込められてしまうのね?」


 非常灯だけが照らす薄暗い廊下を歩きながら閏は頷いた。


「入るのも本当は簡単なんだけどな。魔族であれば。だから、今回はユナを狙った犯人が異空間に小細工しているんだろう。とはいえ確証は無いけど、迷いのある者を先頭に立たせれば俺たちも異空間に入り込めるさ。どうせ、迷い込ませたいんだろうし」


 ことりは納得したように頷いた。


「ここよ」


 ことりが案内した部屋には【悪魔学研究所】と書かれたプレートが飾ってあった。


☆☆☆

今作はあるアニメに影響されて執筆した作品です。

仲間の数はそちらのアニメに合わせてあります!

アニメの名前は次回発表!


今作は長編ファンタジーコンテストに参加中です。

一次審査は読者選考のため、みなさまの♡や☆やフォローの数が重要になってきます。

少しでも面白いと思った方は♡や☆やフォローで応援していただけると嬉しいです(*´ω`*)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る