変化する関係
翌日。目覚まし用にセットしておいたスマホのアラームが鳴り、自室のベッドで起き上がった。
まだ夢の世界にいたい自分を何とか説得して、あくびをひとつ。
制服を手に取って、ノロノロと着替えを始めた。
学校……久しぶりだな。おじいちゃんの葬儀の時に、制服だけなら着ていたけど。
鏡を見て、目元を特にチェック。
昨夜まぶたを冷やしたおかげで、泣き腫らした跡は残っていない。
髪の毛をヘアアイロンとブラシでセットして、目をこすりながら部屋を出る。
同じタイミングで部屋を出た隣の学さんが、私を見てビクッと後ずさりをした。
失礼な。
「おはようございます、学さん」
「……おはよう」
やっぱり、あいさつをして返事があると嬉しいな。
そういえば、朝に学さんの顔を見るのも久しぶりかも。パパと直子さんが旅行中の時以来。
改めて思うと、妙に気恥ずかしく感じる。昨日、目の前で思いっきり泣いちゃったし、尚更。
チラッと顔を見る。
寝起きのはずなのに、完璧な顔面だな……。初めて会った日から思ってはいたけど、かっこいい。直子さんも美人だから、遺伝かな。うらやましい。
「……なに? なんか付いてる?」
学さんが、苦笑いで自分の顔をさわる。
しまった、ジロジロ見すぎた。
「う、ううん、今日もかっこいいなって思ってただけ」
目の前で手をパタパタ振って、ごまかす。
学さんはパチパチと目を瞬かせて、フッと笑った。
「変な奴」
言葉とは裏腹に、その表情はやわらかく優しいものだった。
なんだろう。なんかちょっと、雰囲気変わった? おばあちゃんの家に行って離れていた分、そう感じるだけなのかな。
私たちの間に繋がる赤い糸を見て、自然と笑顔になる。
リビングに向かう学さんの背中を、追いかけた。
私が、直子さんが用意してくれた朝食を半分ほどまで食べ進めた頃、同じタイミングで食べ始めた学さんはすっかり完食をして、席を立ってしまった。
「ごちそうさま」
シンクに食器を置き、すぐに通学用のかばんを手に持つ姿を見て、慌てて水を飲む。
行儀悪くフォークを置くと、ガチャンッと金属音が響いて、その音にパパが顔を上げたけど、そんなことには構いもせず、すでに玄関まで歩いて行った学さんを追いかける。
「ま、学さん!」
「?」
靴を履いて、一歩踏み出そうとする後ろ姿に声をかけると、不思議そうな顔が振り返った。
よかった、間に合って。
息を整えて、すうっと息を吸い込む。
「いってらっしゃい。間に合ってよかった」
ぱちくりとした丸い目が、私を見る。
普通ならマヌケに見えそうな表情でも整っているなんて、イケメンって得だな。
「わざわざそれ言うために追いかけてきたの?」
「あ、は、はい……」
あれ? もしかして、引かれてる?
不安になって、無意識にあとずさり。
すると、クスッと笑った学さんは、私の顔に手を伸ばした。
唇の端に、綺麗な親指が触れて、ピクッと肩が跳ねた。
「付いてる」
慌てて追いかけたせいで、朝ごはんが……!
かあっと熱くなる頬に手を当てる。
それを見て、学さんは微笑みながら玄関の扉を開けた。
「いってきます」
……やっぱり、なんか違う。学さんも、……私も。
*
その後は、いつも通りに瑞貴がうちまで迎えに来てくれて、学校に行くことになった。
瑞貴が、昨日の夜にちょっと様子が違う気がしたから、少し心配していたけど、隣を歩く姿を見ても、目に映るのは楽しそうな笑顔。
……考えすぎだったかな。
学校に着いて、校門を通る。一番に目に入ってきたのは、若菜と杉尾先輩の姿。
また、ふたりでいる。赤い糸が繋がっているから、見つけやすいな。
私がおじいちゃんの葬儀で休む前に、若菜は不安そうにしていたけど、結構いい感じに見える。やっぱり運命同士なんだから、それが自然な姿なんだろうな。
ふたりの邪魔にならないように、瑞貴と一緒に、若菜たちから離れるように歩く。
だけど、不意に若菜が振り返って、目が合ってしまって……、
「あ、芙結……!」
しまった、バレた。せっかく、先輩とふたりきりの時間を過ごしていたところだったのに。
若菜は杉尾先輩に頭を下げて、こちらに向かって駆けてきた。
「おはよう、芙結」
「おはよう。せっかく先輩とふたりきりだったんだから、もっと一緒にいればよかったのに」
「ううん、いいの……」
若菜は首を振って、
「先輩といると、ちょっと苦しいから」
と、ポツリと言葉を落とした。
「それより芙結、もしかして最近、学校来てなかった? さがしてもいなかったから」
「そっか、若菜はクラス違うから、知らなかったよね。おじいちゃんが亡くなったから、それで休んでたんだ」
「あ、そうだったんだ。大変だったね……」
若菜が、私の隣にいる瑞貴を気にするようにチラッと見る。それを即座に感じ取ったのか、瑞貴はニコッと笑った。
「芙結、俺先に行ってるね」
そう言って、スッといなくなる瑞貴の背中を見送る。
「また、気を使わせちゃったな……」
若菜が、申し訳なさそうに呟く。
「いいよ、いいよ。いつも一緒にいるんだから、少しくらい」
苦笑いで顔の前で手を振ると、若菜は小さく首を振った。
「でも、芙結がそう思ってても、瑞貴くんは違うでしょ?」
若菜の言葉に、手を止める。
「悪いことしちゃったな……」
その声を聞きながら、校舎に目をやる。瑞貴の姿は、どこにも見当たらなかった。
「若菜は、私に何か用があったの?」
「え?」
「さっき、さがしたって言ったから」
「あ……、うん」
若菜が私に用があるといえば、杉尾先輩と、その彼女のミナミ先輩のこと……? 私がいなかった三日間で、何かあったのかな。
校門を通る生徒たちが、次々と校舎へ向かう。私たちのように、立ち止まる人はいない。
若菜はうつむき、口を開く。だけど、開いては閉じてを繰り返して、中々話し始めようとはしない。そして。
「……芙結は、応援してくれるって……言ったよね?」
ようやく落とした言葉はまるで、ひとり言のようだった。
「うん、言ったよ。若菜と杉尾先輩は、絶対に結ばれる。ふたりは、運命だから」
顔を上げた若菜は、泣きそうに笑った。
「ありがとう」
*
若菜の様子が気になりつつも、授業が始まれば集中しなくちゃいけない。なのに、三日休んだことで、私は勉強についていけなくなっていた。
この三日は、予習をする余裕だってなかったし。あとで、瑞貴かリサにノートを見せてもらおう。テストも近いし、授業の内容が分からないのはさすがに焦る。
放課後になって、私と瑞貴とリサは図書室に来ていた。
六人がけのテーブルの端っこに私、隣には瑞貴。そして、目の前にはリサがいる。
一時間目の終わり、瑞貴にノートを見せてほしいとお願いして、「だったら放課後に勉強会しようよ」と提案され、それを聞いていたリサも、「梨沙子も交ざる」と名乗りを上げ、今に至る。
図書室には、若菜と、ミナミ先輩、杉尾先輩の三人もいる。
私たちの前のテーブルで、真ん中にミナミ先輩が座って、若菜と杉尾先輩が両端から挟む形になっている。
ミナミ先輩と杉尾先輩はふたりでクスクスと小声で楽しそうに話している。
ふたりに話を振られて、時折見せる若菜の表情は、ずっと困ったように笑っていた。
ふたりが仲良くしている様子なんて、見たくないだろうな。しかも、こんな至近距離で。
そもそも、どうしてこんな状況になったんだろう。私たちと同じように勉強会をしているようだけど、若菜だけは下級生なのに。
若菜と杉尾先輩の赤い糸を見て、私はスマホの画面を指でタップした。
「芙結、聞いてる?」
「え?」
隣で瑞貴が、自分のノートを開いて指さしている。
聞いてなかった。しかも、教えてもらってるくせに、スマホ見ちゃってた。
「ご、ごめん、瑞貴」
「大丈夫? 具合悪いなら、帰ろっか?」
「ううん、そんなことないよ。ちょっとぼーっとしちゃってた」
私は、瑞貴に、顔の前で手を振って見せる。
せっかく私のために学校に残ってもらったんだから、マジメにやらなきゃ。
「あ、芙結ちゃん、それ、おばあちゃんとおじいちゃん?」
リサが、ポケットにしまおうとした、私のスマホ画面を見る。
そこに映し出されたのは、以前ふたりに会いに行った時に、一緒に撮った写真。その時にカメラを持っていたのは、パパ。祖父母にはさまれた真ん中の私は、笑顔。
もちろん、写真の中でも、ふたりの赤い糸は繋がっている。
若菜たちの赤い糸を見たら、この写真をまた見たくなってしまった。
この時は、おじいちゃん元気だったのにな……。
「ごめんね。ふたりとも、早く帰りたいよね。勉強頑張る」
「芙結ちゃん、大丈夫だよ、急がなくても。さっきからずっと気にしてるのって、えーと、若菜ちゃん? のこと?」
リサが小声で、チラッと振り返る。私からは正面に若菜たちが見えるけれど、リサからは背中側に三人がいる。
「うん、実はそうなの……」
若菜はそこにいる男の先輩のことが好きで、赤い糸の運命なんだけど、でもそれは隣にいる女の先輩の彼氏で。さらに、その女の先輩は若菜とすごく仲のいい人でもあって……。
なんて、聞いて欲しくても、話すわけにはいかない。
赤い糸の話は言えないし、何よりも、恋愛相談は若菜が私を信用して打ち明けてくれたことでもあるから。
うーん。と、うなっていると、リサは若菜たちを見て首をかしげた。
「仲良さそうだけど、どういう関係なんだろう?」
確かに、男女の先輩ふたりと、後輩ひとりというと、事情を知らない人からなら少し不思議な組み合わせに見えるかも。
「ごめん、俺ちょっとトイレ」
杉尾先輩が席を立って、図書室を出ていく。若菜とミナミ先輩がふたりきりになった。
無意識だろうか。若菜がため息をついた。それに気づいたミナミ先輩が、苦い笑みを若菜に向けた。
「ごめんね、女同士の方が良かったよね? 最初は、私たちふたりの約束だったのに」
「えっ!? あ、そんなつもりじゃ……! ごめんなさい!」
「いいの、いいの。気をつかわなくて。あいつ、若菜のことお気に入りみたいで、可愛がってるからさ。私が若菜に会いに行こうとすると、絶対ついてきちゃうんだよね。ウザいでしょ?」
「ううん、そんなこと……」
聞き耳を立てているようで、申し訳ない気持ちになる。でも、聞いてしまう。
こんな話をされて、若菜は複雑だろうな。
「あいつがいない今のうちに、分かんないとこ教えてあげる。若菜、さっき首かしげてたでしょ。どこ?」
「あ、見られてたんだ。実は、この数式が……」
「これはね、xがここ。……で、こうすると簡単だよ」
「わ、すごい! ありがとう!」
杉尾先輩がいなくなって緊張がとけたのか、若菜はミナミ先輩にノートに書きながら教えてもらい、楽しそう。
何も事情を知らなければ、仲睦まじい先輩後輩に見える。
私は若菜の友達だから、若菜を応援するって言ったけど。そしたらきっと、ふたりの今の関係は壊れてしまう。
赤い糸同士だから、きっと結ばれる。
でも、……本当にそれでいいのかな。
その後は、上の空になりながらも瑞貴とリサに勉強を教わって、暗くなる前に帰ることにした。
反対方向へ帰るリサとは校門で別れて、瑞貴とふたりきりで歩き出す。
「芙結、ずっと若菜ちゃんのこと気にしてたね」
「う、ご、ごめん……。せっかく瑞貴たちが勉強教えてくれてたのに」
「んー、別にそれはいいんだけどさ。若菜ちゃんって、一緒にいたあの男の先輩のことが好きなんじゃないの?」
「え……!?」
す、するどい。
上手くごまかす言葉が思いつかず、唇を結ぶ。馬鹿正直に明かすわけには……。
「でも、あの先輩って、どう見てもミナミ先輩の彼氏っぽかったよね。難しいね」
「ちょ、ま……っ」
周りを気にして、慌てて見回す。うちの学校の生徒は、誰もいない。
「大丈夫だよ、誰にも言わないから」
「瑞貴に対して、そんな心配はしてないけどさ」
「え? そう? なんで?」
「だって瑞貴は、私が嫌がることは絶対にしないでしょ」
そんなことは、わざわざ口に出して言うことでもない。
「私は、若菜を応援したいんだけど、でも……、あれ?」
瑞貴が、私の隣から消えた。後ろを振り向くと、先ほどまでいた場所で瑞貴がしゃがみこんでいた。
「えっ、何!? 大丈夫!? どうしたの!?」
具合が悪くなったのかと、慌てて駆け寄る。
「瑞貴、大丈夫?」
両手で隠した顔をのぞきこむ。
って、……真っ赤?
「大丈夫……、芙結が好きだなあって、再確認してただけだから」
その言葉に私まで赤くなって、すぐに言葉を失った。
こんなことを言われるたびに、いつも思う。瑞貴は、どうして私なんかをずっと好きでいてくれるんだろう。
目を閉じると、子どもの頃から変わらない笑顔がまぶたの裏で容易に再生される。
小さい頃からずっと、変わらず「好き」をくれる、幼なじみ。
目線を合わせるために、私も屈む。
「瑞貴」
名前を呼んだ、その時。
「芙結?」
私のことを呼ぶその声は、瑞貴じゃなかった。声のした方に目を向けると、学校帰りの学さんが、こちらに向かって歩いてきた。
今日は勉強会をしていたから、遠くの学校の学さんと下校時間が被っちゃったのか。
というか、今、「芙結」って名前で……。
「何してんの? 体調悪い?」
しゃがみこんでいる私たちに、学さんが声をかける。瑞貴はスッと立ち上がり、笑顔を見せた。
「いえ、大丈夫です。芙結の義理のお兄さん? めっちゃイケメンですね」
「ああ、どうも……?」
瑞貴に首をかしげたあと、学さんは私の腕をつかんで立たせてくれた。
「わあ!?」
「そっちの彼が平気ってことは、体調悪いのは芙結の方だろ。早く帰るぞ」
「え!? いや、あの、平気」
まさかの勘違いに否定をしたいけれど、グイグイと手を引かれて歩かされて、そんな暇がない。
「あ、あの、瑞貴!」
「芙結、お大事にね~」
何も不調がないと分かっているはずの瑞貴は、こちらに向けて大きく手を振っている。相変わらず、ニコニコしたままで。
瑞貴は、昨日は学さんの顔を見たくないと言っていたのに。
私も瑞貴に小さく手を振る。
それを横目に見ていた学さんは、少しだけ歩く速度を緩めた。
「あれって、昨日の夜にうちに来た奴?」
「あ、はい、見えてたんですか? 幼なじみで。家も、結構近いの」
「ふーん」
学さんは、家までの帰路、それっきり黙ったままで。
私はずっと、繋いだままの手が気になっていた。
「で? どこが悪い? 薬が必要なら買ってくるから」
「い、いえ、あの……っ」
家に着くなり、私をソファーに座らせた学さんは、目の前でひざまずいて、額に手を伸ばしてきた。
「熱は……ないみたいだけど」
そうなんです、ないんです。だって、どこも悪くはないから。
そう言いたいけれど、ドアップになった綺麗な顔と、額に当てられた大きな手のひらに緊張して、声が出せない。
「やだ、芙結ちゃん体調悪いの? 大丈夫?」
私たちの様子を察した直子さんが、キッチンから顔を出す。
「だ、大丈夫です。本当に、なんでもなくて……」
「でも、顔赤いけど」
学さんはそれでも食い下がる。
それは、あなたがこんなことをしているからですから……!
もう少し、自分の顔の破壊力を理解して頂きたい。
ジーッと見つめられて、頭が沸騰してしまいそう。
だけどその表情は、本当に私を心配してのことだと分かる。
「大丈夫、どこも悪くない……です。だから……」
息苦しい。酸素が足りていないみたい。
「ま、学さんの顔、かっこよすぎて緊張するから、……勘弁してください」
プシュウッと蒸気が出てしまいそうな熱々の額から、学さんの手が離れた。
「……何もないなら、よかった」
そう言って顔を背ける学さんの耳は赤くて、きっと私の熱がうつってしまったのだと思う。
「着替えてくる」と言った学さんが、階段に向かうのを確認して、触れられた額に手をやる。
手のひら、大きかった……。包み込むように優しく触れて、視界いっぱいに顔が……。
「芙結ちゃん大丈夫?」
「!」
学さんでいっぱいになっていた脳内に、にゅっと直子さんの顔が現れて、声にならない悲鳴が飛び出た。
び、びっくりした……!
「はい、心配かけたみたいでごめんなさい」
ドキドキとうるさい胸に手を当てて、直子さんに笑顔を見せる。
「ううん、家族なんだから、いくらでも心配させて」
直子さんは、ソファーに座る私の隣に腰かけた。
「嬉しいな。学と芙結ちゃんが、仲良くなってくれて」
「仲がいいっていうか……」
そんな言い方は正しいのかな。確かに、目に見えて雰囲気がやわらかくなったとは思うけど。
「学がね、女の子に優しくするなんてめずらしいんだよ。我が子ながら、それはそれでどうかと思うんだけどね」
学さんは、女の子に優しくない?
そうかな? と考えたところで、思い出す。そういえば、第一印象は最悪だったんだっけ。
「学さんは、どうして女の子に冷たくするの? あの顔で笑いかけられたりなんかしたら、その日一日ずっと幸せでいられると思うのに」
「問題は、それなのよね」
「?」
学さんの笑顔で、幸せになれる女の子を量産することの、どこに問題が?
直子さんは苦く笑いながら息を吐き、続ける。
「女の子の行動力ってすごいのよ。学の捨てたゴミを集めたりとか、家までついて来たり。無言電話、隠し撮り、あとは……」
直子さんが指折り数えて、そのたびに自分の顔色が悪くなっていくのが分かった。
どうやら、顔がいいってうらやましいな~。なんて、次元の話ではないらしい。
最初に私に冷たかったのも、どうせまたすぐに家族じゃなくなるからという理由だけじゃなくて。運命の人だなんて、言ってしまったから?
女性関係で散々な思いをしてきた学さんが、初対面の女にこんなことを言われて、嬉しいわけがない。
それは、冷たくしたくなるよね……。
ていうか、私バカ!!
赤い糸なんて、他の人には見えないんだから、口に出しちゃいけなかったのに。
取り戻せないことだとはいえ、過去の自分の行動をはげしく反省して、頭を抱える。
「あら、やだ、芙結ちゃん大丈夫? やっぱり具合が……」
直子さんが、隣から手を伸ばす。階段から、降りてくる足音も聞こえてきた。
目を閉じると、そっと手のひらが後頭部に触れた。
直子さんにますます心配をかけてしまう。
「すいません、直子さん、本当にだいじょう……」
まぶたを開けて、隣を見る。そこにいたのは、直子さんじゃなかった。
「え!? ま、学さ……!?」
「母さんじゃなくて、悪い」
「いや、あの、……!?」
視界を動かすと、直子さんはすでにキッチンで料理の続きに戻っていた。
真っ赤になっているはずの私の顔を見ながら、学さんは頭を撫でてくれている。
「頭、痛いのかと思って」
違うと言いたいけれど、声が出ない。
初対面で運命の人と発言した私に、冷たかった学さん。それなら、……今は?
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