第46話 杖

「...うっ。」

痛い、お腹も背中も全部痛い。

あの男絶対にぶっ殺してやる。赦さない。

「後悔しても知らないぞ。」

...あのクソ教師の声ね、

視界がぼやけてよく見えない。

「期待はずれは勘弁だぜ?」




俺は奴に投げつけられた俺のリュックから

あるものを取り出す。

「ほぉ、杖か。」

「でも、魔術師の杖ってのは魔力の補助が

 目的なんじゃなかったか?」

奴が俺の全長五十センチ程の小さな杖を指差す。

「それでどうやって俺に対抗するんだ?」

(そうよ杖なんか使って

なんの意味があるってのよ...)

「まあ俺のは特注でな。

ほかのとは少し違うんだよ。」

実際奴の言うことは正しい。

この世界の魔術師の杖というのは少ない魔力を

増幅させる役割を持つ使い捨てのものだ。

だがこれはそれとは違う。

「ほーう。そりゃ俺の雇い主が喜びそうだ。」

「雇い主?」

「あぁ言ってなかったっけな。」

「お前がどこまで聞いたのかは知らないが、

ウチの国ではお前らみたいな魔術師に関する

研究が最近のブームなんだよ。」

「そんで国にその研究を一任されてる天才が

いるんだがそいつが俺の雇い主ってわけだ。」

「お前らの魔術を封じてたのもこのローブも

 その雇い主の発明さ。」

...確かにどちらもすごい発明だ。

だが...

「お前に拉致された人たちは

どうなったんだ。」

「知らねぇよ。ただ研究室に連れてって

出てきた奴は見た覚えがねぇな。」

「そんなことより早くやろうぜ。俺は魔術も

研究も興味ねぇんだよ。ただ、強え奴と

戦ってそいつをぶちのめしたいだけだ。」

赤髪の男はヘッヘッと醜悪な顔をして笑う。

「...そうか。」

こいつはここで倒さなきゃいけない奴だ。

「行くぞ!」

俺が杖を前に向けると同時に奴は踏み込んだ。

さっきまで十メートル程の距離があったのに、

即座にその間は詰められた。

奴からは一切の隙が感じられず、今すぐにでも

俺を取り殺してしまいそうだった。

だが、俺は負けじと詠唱を始め...

シエラフィル!?

飛び込んできた奴の後ろに殴りかかろうとする

シエラフィルが見えた。

「うぁぁぁぁあ!!!!」

完璧に死角ではあった。

だが、

「おいおいさっきので実力差が

わかんなかったか?嬢ちゃん。」

男は俺の方に向いていた体を捻らせて左足を軸足に右足でシエラフィルに回し蹴りを入れた。

完璧にカウンターを食らったシエラフィルは

部屋の左端へと飛ばされた。

ブォグという鈍い音が鳴る。

「はぁ、ばかなのも考えものだなぁ。」

確かにあまりにも無謀だった。

でも、そのおかげで奴に隙が出来た。

勝てる!!

「で、次はおまえ!!」

「「ストーンボルト」」

奴が振り返った瞬間目の前に奴の頭ほどの

大きさの雷を帯びた岩石が俺の杖から

生成される。そしてそのまま最大速度

最大出力で射出される。

岩石は奴の頭に直撃し奴ごと部屋の奥まで

飛んでいき壁を突き破った。突き破った壁が

崩れる音と雷鳴が部屋に響き渡る。

「俺達を殴った分返したぞ!」

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