第32話 鳥を落とすには?

 やっぱり俺の思った通りだった。

おそらく全員ではないがこの世界の大多数の

人間は魔術の出力の変更及び魔術の複合が

可能なことを知らない。

だからフュエルデルさんは俺に興味を

持ったんだ。

まあ考えてもみれば魔術が当たり前にある奴らからしたら弱い魔術をどうにか強くする術

なんて考えずにもっと高位の魔術を

覚えようとするのが自然か。

「おい!どんなタネを使ったんだ!」

「魔道具か!?何を使った!?」

「それとも、上級以上の

魔術が使えるのか!?」

「いいえ。魔道具は使ってませんし

これは初級魔術です。」

「だったらどんな仕掛けが!」

「では、ここで一つクイズを出します。」

「あなたの目の前にヒライドリがいます。

僕が使える魔術だけでヒライドリを

撃ち落とすにはどうすれば良いでしょう。」

ヒライドリってのはこの世界にいる。

異様に落雷を受けやすい鳥の名前だ。

この鳥はその性質から、

電気に対してほぼ完璧に近い耐性がある。

「初級魔術だけでヒライドリを撃ち落とす?」

「そんなの雷魔術を使えば。」

「それじゃダメだ。

ヒライドリは雷に耐性がある。」

「じゃあ岩魔術?」

「それでもダメだ!岩魔術じゃ速度が遅くて

 当たらないぞ!」

生徒たちはそれぞれの意見を交差させて

議論をした。

「じゃあどうしろってのよ!岩魔術でも

雷魔術でもダメなんて。ほかの初級魔術なんて

使い物にならないわよ!」

もう手詰まりといった空気だった。

「ハンッ。みんな何を惑わされているの?」

「あの男は無理難題を

突きつけているだけよ。」

「雷の効かないヒライドリを撃ち落としたい

ならもっと火力の高い高位の雷以外の魔術を

使えば良いだけよ。」

先ほどの赤毛の女性とが鼻で笑うように

そう言った。

「そうか!その通りだ!」

「冷静になればその通りだ!初級魔術で

撃ち落とすなんて無理なんだ!」

「冷静になれば簡単なことじゃないか!」

さっきまで俺のクイズを考える方に傾いていた教室の空気が一気にあの少女によって

変えられた。

少女は俺に勝ち誇ったような顔をしている。

なるほどね。

典型的なイジワルお嬢様ってワケだ。

おそらく自分の生きてる世界が全てで、

世界は全て自分を中心にできているんだろう。

その性格個人的に気に食わない。

伸び切った天狗の鼻へし折ってやるとしよう。

「はぁ〜。お前らエリートがそんなに集まって

 そんなもんか。」

ここはあえて怒りを煽る。

「自分の理解の思いつかないものは

思考放棄かよ。」

「がっかりだぜ。」

「なんだとっ!」

俺は激昂する生徒を無視して

赤毛の少女を指さす。

「おい、そこの赤毛の。」

「名前は?」

「私?なんであなたに名乗らなければ

いけないの?」

「あっそ、まあいいけどさ。」

俺はそう言って左手を前に出した。

「お前が思ってるより世界は不思議なこと

だらけだ。だから、全部がお前を中心に回ってるみたいな顔してんなよ。」

「「母なる精よ 怒りの精よ  

   今一度世界のために 貫くために  

               従い導け」」

俺は詠唱を終えると岩魔術に雷魔術の特性を

乗せた、複合魔術を赤毛の少女の

真横に打ち出した。

もちろん加減はしてある壁を突き抜けて、

後ろの生徒に当たることのないように。

「はい!これがさっきのクイズの答えです。

 難しかったでしょう?」

俺は手を下ろして笑顔でそう言って締めた。

「うおぉお!!!なんだ今の!!??」

「たしか雷と岩の

初級魔術を唱えてたよな!?」

「岩の初級魔術じゃ

ありえねぇ速度だったぞ!」

「どんな原理だ!??」

生徒の注目は全て俺の方に向き

完全に流れは俺のものになった。

赤毛の少女は苦虫を噛んだような

険しい顔をしている。

ほれほーれ、さぞ悔しかろう。

これが精神年齢二十五歳の力じゃ。

たかだか十五、六の小童めが。

ふふんっ。と俺は得意気であった。

異世界にきて初めて大人らしさを

見せられた気がする。

いや、無知なガキを一方的に知識でいじめるのは大人のすることではないのかもしれない...

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