第26話 フューとデアル


「「癒しの精よ 立ち上がり 

        再び戦うため 従い導け」」

「これで損傷した部位はすべて治ったわ。」

「でも、体力をかなり使ったからシディ

しばらくは起きないと思う。」

シフィリアはそう言って立ち上がった。

「ありがとうシフィリア。

シディに問題がなくて良かった。」

そう言うとデアルはベッドで気を失っている

シデアを見た。

「あ、あのシディは...」

フューが申し訳なさそうに扉から

顔を覗かせる。デアルは近づいて

「シディは大丈夫だ。

フューが助けを呼んでくれたおかげだ。」

ありがとな。と言って笑顔を見せた。

「...」

フューは以前のような暗い顔をして頷いた。





「フューは前に比べて明るくなったし、

 よく喋るようになった。」

「でもそれはシディに対してだけだ。

俺たちに対しての対応はそんなに

変わらないように思える。」

「確かにそう言われてみれば

そうかもしれないわね。」

ぼやくデアルにシフィリアが紅茶を淹れる。

「さっきも、フューは何か言いたいことが

あるのに黙ってるみたいだった。」

「そんなに気になるなら直接話してみたら?」

「あなたも言いたいことあるんでしょ!」

シフィリアは淹れた紅茶をずいっと

突き出して言った。





(僕はシディがやられているのに

何もできなかった。)

(ずっと弱いままで何もできてない。)

フューの頭に

狼を打ち倒すデアルの姿が浮かぶ。

(あの人は強かったな...)

コンコンッ

「おい、フュー今ちょっといいか?」

扉を叩いてデアルが様子を伺う。

「...はい。」

フューが扉を開けてデアルを部屋に入れる。

デアルは椅子に座りフューはベッドに座った。

しばらく気まずい空気が流れ、沈黙する。

「なぁ、フュー。」

「俺は世間的に見ればそんなに歳は食ってないが、冒険者なんてやってたくらいだから

経験は豊富な方だ。

ってなんでもわかった気でいたんだ。」

「だから、シディのことをあいつは

賢いからってそこまで心配してなかったし、

フューのこともあいつに任せてたんだ。」

「でもさ、あいつも子供なんだよ。」

「なんで気づけなかったんかな。」

「俺あいつが痛めつけられてるのを見た時、

怒りで気がおかしくなるかと思ったよ。」

「あきらかに俺のミスだ。」

「でも、そのミスを今すぐに埋められるだけの器量は俺にはない。」

「だから今回みたいなことがあったら

 また俺を助けてくれないか?」

「大人として情けないのはわかってる。

 でも今の俺にはこれくらいしかできない。」

「...。」

(...親子だからかな...まるでシディみたいだ。)

(ほんとは僕なんかより全然強いのに、)

(不器用で真っ直ぐにしか言葉を伝えられない。)

(でも、そんな人だから僕はこの人を...)

「いや...僕の方こそ助けられたんです。」

「今回もだけど、僕を盗賊団から

守ってくれた時からずっと。」

「たしかに、暗がりにいた僕の心を

開いてくれたのはシディです。」

「でも、その前からずっとあなたは僕のことを

 守ってくれてましたよね。」

「僕が大人に心を開いていないのにも

関わらず...」

「でも、シディと話しているあなたや

さっきの取り乱していたあなたを見て、

大人は僕が思っているほど強くもなければ

怖くもない。」

「同じ人間なんじゃないかって思えたんです。」

「だから...」

「だから...僕あなたのことも

信じてもいいですか?」

(僕はこの人のことを信じてみたいと思った。)

「...当たり前だ。」

「俺は立派な大人ではないかもしれないが、

 お前に信頼されるような人間になるよ。」

デアルはそう言って満足気な顔で椅子から

立ち上がった。

「あ、あと...」

部屋から出て行こうとしたデアルを

フューが止める。

「?」

 

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