第20話 大人ではない人
もう全部どうでもいい。
大好きだったパパとママは僕を置いて
死んでしまった。
次に、僕を養ってくれた人はずっと僕を
騙してた。
どうせ大人はそうやって僕を裏切って、
騙すんだ。
僕を騙した人の顔は怖くて嫌いだったけど、
パパとママの笑顔は太陽みたいに
僕を包んでくれて、大好きだった。
でもどうせ裏切られるんなら
もう何も見たくない。
僕は悪い人に騙されていたから、
明日から優しい人達のもとで暮らすらしい。
でもこの人達もいつ僕を裏切るかは
分からない。
だったら最初から信じない方が楽だ。
この家には僕くらいの歳の子供が一人いる。
いつも僕に付き纏ってくる。
散歩に行こうと言ったり、
星を見に行こうと言ったり一体何を
企んでいるんだろう。
僕に何の価値もないのに。
今日は花火大会に行こうと言ってきた。
正直花火大会がなんなのかは知らなかったけど、この家から追い出されないために
言うことを聞いた。
どこかに行くらしい、
人がいない道を通っている。
殴られるのかな。しばらく歩くと、
急に立ち止まって何かを言い始めた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜。」
なんか言ってるけどもうどうでもいい。
どうでもいいんだ。もう誰もしんじ...
「だから...」
「だから...俺を見てくれ。」
なぜかその言葉だけははっきりと聞こえた。
あの家に来てから初めてのことだったと思う。
...見るもなにも。どうせ騙すつもりなんだろ。
僕は言われた通りわずかに自分より背の高い、彼の顔を見上げた。
そこには今までの大人たちのどれとも違う
顔があった。
僕を包んでくれるような優しい顔でなければ、
だからと言って
僕に悪意を持ったような顔でもない。
焦りや動揺が見える、とても僕を騙すことも
裏切ることもできそうにない顔だった。
今までのどの大人たちよりも小さく、
弱々しい子供。
そう思うとなぜか心が
少し軽くなった気がした。
それと同時に視界が開ける。
今まで気づかなかったけど僕はかなり周りが
見えていなかったのだろう。
今まで見たこともないような綺麗な光景が
目に入ってきた。
「綺麗だ...。」
俺はびっくりして少し固まってしまった。
無理もない。
今まで曖昧な反応しかなかったフューが
「綺麗だ」と言ったのだ。
たった一言だが確かに言ったのだ。
今しかない。
「フュー何回も繰り返すようで悪いけどさ、」
ひたいから汗が垂れる。自分で脈拍が上がっているのがはっきりとわかる。
「俺はお前から離れないから、頼むから俺の
家族になってくれ。」
何もうまいことは言えてない。
脈拍が上がって体中が熱い。
なんの余裕もなく不格好だが俺の伝えたいことは全部言えた。
この人からはなんの余裕も強さも
感じられなかった、でもだからこそ
この人は信じても良いかもしれない。
弱々しくも、僕に寄り添おうとする
この人のことなら。
頼む俺の気持ちが伝わってくれ、フュー。
フューは顔を上げて俺の方を向いた。
長いまつ毛がパシパシと動きその中の
瞳が俺の目と合う。
フューの瞳には生気が感じられた。
「うん...。」
今までと同じ返事だった。
でも、俺の気持ちもフューの気持ちも
今までとは違って、明るいものだった。
そんな気がした。
ひゅーーーっと音を立てながら上がって弾けた花火が俺を祝福しているような気がした。
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