第21話 大人だからわかること
「シディうまくやってるかしら...。」
シフィリアが頬杖をついて、
ぼやくように言う。
「あいつならうまくやるさ。」
机を挟んで向かいに座るデアルが、グラスに
酒を入れながら返す。
「でもシディは普通に話すのにも
手一杯だったのよ?」
「祭りなんて騒がしいところでとてもあの子と
うまくやれるとは思えないのだけど。」
「だから良いんだよ。
俺たち大人じゃあの子を上手いこと
元気付けてやることしかできない。」
「一方で子供という同じ立場にいるからこそ
かけてやれる言葉がある。」
「でも、あいつも気負いすぎて言えることも
言えなくなっちまってただろ。」
「もしかして、だから花火大会を?」
デアルは「まあな」と、得意げな顔をした。
「頭の良いあいつのことだ、最善ではないに
してもきっと適した言葉を言えるはずだ。」
「そうね。それにしてもよく見てるのね。」
「まあ俺は大人だからな。」
渾身のドヤ顔をするデアル。
「なに!私が大人じゃないって言いたいの!」
頬を膨らませて怒るシフィリア。
「ごめんごめんそんなつもりはなかったよ。」
(まあ冗談はさておきうまくやってるだろうな
シディ。)
「クッッッソォォ取れねぇぇぇ。」
俺はフューに想いを伝えた後祭りに戻ると、
射的屋で膝をついて打ちひしがれていた。
「あの的動かなすぎだろ!!」
どうなってんだ!クッソー!
全く倒れる気配はないけど景品の魔術に関する
本が欲しすぎる!
「オッチャンもう一回!」
やはり背に腹は変えられん。
「おーし、じゃあここまで金を使ってくれた
ボウズにヒントをやろう。」
そういうと射的屋のオヤジは射的の銃を
手に持った。
「こいつはな、魔道具って言って中の構造が
特殊でな使用者の込める魔力量によって
威力が変わるんだ。」
「だから、ただ普通に打ってるだけじゃ
大した威力にはならねぇ。」
「て言っても魔力を扱える人間なんて
そうそういねぇましてやボウズには...」
ドゴンッ
という発射音と共に景品の本が倒れる。
「よくも、今まで騙してくれやがったな?
オヤジ。こっからは全弾命中で
全景品倒してやるぜ。」
「うわぁ!勘弁してくれー。」
「ハッハッハッ!!!」
「フフッ」
後ろから笑い声がする。
後ろを見るとフューのものだった。
「ははっあははっあはっははっ。」
「どうしたの?...フュー。」
「だってシディ落ち込んだと思ったら、
怒ったり笑ったりしておかしいんだもん。
ハハっ。」
フューが涙を拭きながら笑顔でそう言った。
まるでさっきまでの無表情が
嘘であったかのように。
「あれ?僕なんか変なこと言った?...」
何気ないただの笑顔だ。でも俺にはその笑顔がとても尊いもののように感じられた。
「ううん、なんでもないよ。」
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