第13話 悪い子だから

ずいぶん話し込んでしまったな。

時計を見るとかなり針が進んでいた。

まあそれもこれもデアルがいらない

軽口を挟んでくるせいなのだが、

まあ今回のことでデアル・レントという

人間を少し知ることができた。

そう考えるとそこまで悪いことも...

「んっんんっ...」

目の前でベッドに横たわっている少女が

目覚めようとしていた。

日の入りのようにゆっくりと目を開けた。

「大丈夫?頭とかどっか痛くない?」

治癒魔術をかけたのにも関わらず長いこと

眠っていたからな心配だ。

「う、うん...どこも痛くない。」

寝起きだから意識がはっきりしていないのか

返事は曖昧だが体調は悪くなさそうだ。

よかった。

「! もうこんな時間!急がないと!」

さっきまでの曖昧な返事とは裏腹に少女は

時計を見るや否や立ち上がりすぐに

駆け出そうとした。

「ちょ、ちょっと待って。」

俺は彼女の服の裾を掴んで止めた。

「放して!急がないと!急がないとパパとママにまた捨てられちゃう!」

彼女は泣きそうな必死な顔で俺に訴えてきた。

パパとママに捨てられる?

...両親はいないんじゃなかったのか?

俺は思わず裾を放してしまった。

少女は裾が放されると部屋から出ようと

扉の方へと走っていった。

「ちょっとまっ...」

「ちょっと待った。」

少女が扉を開けるとその先にはデアルが

立っていた。

デアルは少女を抱えて肩に乗せると続けた。

「君は盗みをしたんだ。このまま衛兵に

連れていって牢屋に入れてもらっても

良いんだ。でもパパとママに会いたいん

だろう?だったら少しはこっちの話を

聞いてくれるかい?」

そう言うと少女は納得したのか動きを止めて

頷いた。

牢屋の話に関してはデアルの嘘か、

ナイス機転だデアル!

降ろされた少女は部屋の片隅にある

椅子に座った。

「君はどうして人のものを盗んだの?」

俺は少女の方へと歩いて行って最初に

スリの件について聞いた。

少女は少し詰まった後に申し訳なさそうな

顔をしながら。

「お金を用意すればいい子だって...

言われた。」

金を用意すればいい子?

「そうすればいい子になった私をパパとママが迎えに来てくれるって...」

「君のお父さんとお母さんはどこにいるの?」

「わからない...でもパパとママは

私が悪い子だから。」

「私を捨てたってレイゲルさんが...」

少女の顔は段々と曇っていった。

悪い子だから捨てた?

そんなことあり得るのか?

「今、レイゲルって言ったか!?」

「レイゲル・サムスか!?」

後ろで俺たちの会話を聞いていたデアルが

驚いた様子で質問してきた。

「え、...わからない...ごめんなさい...。」

「そ、そうか...。」

「どうしたんだよ父さん。

レイゲルって人がどうかしたの?」

「いや、取り乱してすまない。

シディちょっと来てくれ。」

デアルは少し困ったような顔をしている。

俺がデアルの方へ行くとデアルはしゃがんで

俺に耳打ちしてきた。

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」

「っ。」

「それは、確かなことなの?」

とても本当のこととは信じたくない。

「もし、レイゲル・サムスならまず

間違い無いだろう。」

「じゃあ。」

「あぁ、あの子を一人で

返すわけにはいかない。」

「あのっ!」

少女がシデアたちの元に向かう。

「そろそろ、帰ってもいいですか?」

「急がないと。」

俺は彼女のその言葉を受けてデアルと

顔を見合わせた。

「うんいいよ。もう盗みはしちゃダメだよ。」

「は、はい...。」

そう返事をすると少女は暗い顔をして盗みを

した時のようにフードを深く被り部屋を出て

行った。

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