第3話 母と子
一体何がいけなかったのだろう。
どうしてもシフィリアのあの顔が
頭から離れない。
俺は前世から工業校に行くような安牌を
取るだけあって親どころかおよそ人に
キツく叱られるということを経験していない
のだ。はっきり言ってかなりショックだった。
「シディ。ちょっと来てくれる。」
考え事をしていたので気づかなかったが、
どうやらシフィリアはいつの間にか
俺の部屋の戸の前に居たようだ。
「うん。」
俺は部屋から出てシフィリアの
もとへ向かった。
彼女の顔は相変わらず暗かった。
「あのねシディ。まだ二歳にもなってもない
あなたにこんなこと言ってもわからない
かもしれないけれど聞いて」
「魔術を覚えるっていうことはね
魔術師になるってことなの。」
「そしてね、魔術師になったら
当然危険なこともいっぱいあるから。」
「私あなたが心配で...」
そうか、それはそうだ。失念していた。
シフィリアからすれば俺はまだ二歳にも
満たない可愛い可愛い我が子だ。
そんな子供がおそらく戦闘することもあるで
あろう魔術師になると言うのだ
反対しない母親はいないだろう。
にも拘わらず、シフィリアはちゃんと母親として息子である俺に向き合ってくれているのだ。
ならば俺も向き合わなければいけない。
俺はママ、パパなんて呼んで可愛い息子シデアとして対応してきていたが。
そんなのは向き合っていない。
ただ適当にあしらって、見下しているだけだ。
だから俺もシデアとしてではなく、
俺自身として嘘偽りなくシフィリアに
向き合わなければいけない。
「わかったよ。母さん。」
「!?...わかってくれたの?シディ。」
「それでも俺は魔術が学びたい。
あんな面白そうなものを学ぶのに一秒も
無駄にしたくないんだ。」
シフィリアには申し訳ないが俺を
心配してくれてることも俺のためを
思ってることもわかる。
でももういつ死んでも後悔しないように
生きたい。
「だから...だから」
ダメだ向き合うと決意したのに思うように
言葉が出てこない。くそっ。
「面白そうかぁ...。」
俺が次の言葉に詰まっているとシフィリアが
こぼすようにそう言った。
「...あのね、お父さんとお母さんは今は衛兵 と主婦だけど昔冒険者だったの。」
「でね、お父さんも私もなりたくてなった わけじゃなかったの。」
「頭が良かったわけでもツテがあるわけでも
なかったからとにかく何か仕事をってね。」
「私たちの周りはそんな人たちばかり
だったから。
冒険者を楽しめる人が分からなかったの。」
「でもシディならわかるのかな...。」
シフィリアは何か深く考えるようにしばらく
俯くと、再び顔を上げた。
「良いわよ、シディ魔術を教えてあげる!」
「ただし私の指導は厳しいからね!」
俺にはシフィリアの考えていることは
よくは分からなかった。
ただ、俺を思ってくれているのだと。
それだけはわかった。
そしてありがとう。
「うん!」
俺は力強く返事をした。
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