第2話 魔法と魔術と心配

 まあ、この世界は俺を特別にしてくれるなどと息巻いたは良いが、

結局三ヶ月では発語どころか、

自分のケツも自分で拭けない始末であるため、俺はとりあえずの一年間の目標を

言語のマスターにした。

意欲的に取り組むとやはり違うのだろう、

今まで記憶にうっすらと残ってはいるが

意味を忘れてしまっていた固有名詞なんかも

三ヶ月もすれば覚えられるようになった。

現在生後六ヶ月である。

そこでわかったのだがどうやら俺が魔法と

思っていたものは魔術らしい。

何が違うのだろうと思ったであろう。

俺もよくわからん。

ただこの前使っていたものとは

別に不思議な力があるということと、

そちらの方が高位でより奇跡的な子供の御伽話のようなものであるということから、

日本語で言うならばニュアンスとしては

魔法が近く、この前使っていたものは

魔術という言葉が近いだろうと感じたため、

そうしておく。我ながら中学生英語の

延長のような工業高校の英語を学んでいたとは

思えないほどの語学への理解力、思考力だ。日々研鑽だな。


一年後


一歳六ヶ月になった。この歳までなると足腰もしっかりして、自力で走れるようになった。

ケンケンパもできる。もちろん発語も。

そこで俺は以前ママが使っていた

魔術を使ってみようと思う。

もし万が一、威力が異常に高く家が壊れても

困るので外で試すことにした。

「ママー。お外遊び行ってきて良い?」

ここはあざとくガキの可愛さ満点に行くぜ。

「良いわよー。けど可愛い可愛いシディをその 前にぎゅーってさせて。」

ママは手を大きく広げる。

「うん!」

俺はどさくさ紛れにママの大きな胸に顔を

埋める。ちなみに言い忘れていたが、

この女かなりの巨乳である。

はっきり言って役得だな。

加えてついでに名前はシフィリア・レント

というらしい。父はデアル・レント。

つまり俺は、シデア・レント。ちゃんと家名のあるお家で良かったねシデア君。

なんでも母シフィリアと父デアルは昔コンビで冒険者をやっていたらしい。

この世界は魔術があるだけあって職業も豊富だなぁと感じた今日この頃である。

と、そんな話をしているうちにちょうど

人気のない林に着いた。

よし、ここなら俺の溢れる才能によって魔術が暴発しても問題ないだろう。

ではさっそく。右手を前に突き出す。

「えーっと確か。」

「気まぐれの精よ 花々のため 従い導け」

何も出ない。詠唱を間違えたのだろうか?

いや、小学生時代あらゆる詠唱を覚え、

高校ではクラスで黒魔術師になっていた

俺が詠唱を間違えるとは考えにくい。

「ってことは」

才能なし?

「まじかよぉー」

「せっかく異世界に来ても魔術が使えないん

 じゃ、PC買ったのにMacだからゲームが

 OS対応してないみたいなもんじゃねぇか...」

「いやまあ、だとしたらWindowsの

 プロダクトキーを買えば良いんだけどさ...」

「いや、待てよ。まだ俺はMacからWindowに

 機種変して操作方法がわからない状態

 なのかもしれない。」

だとしたらまだ才能がないとは限らない。

「そうだ!ママに聞いてみよう!」

多少変なガキと思われるかもしれんがまあ仕方あるまい。



「ママー!」

俺は家に帰るとさっそくママに甘えるように聞いてみることにした。

「んー?どうしたのシディ?」

満面の笑みである。俺はこのママの笑顔が

幸せの象徴のようで嫌いではない。

「魔術を教えて!」

カチッ

先ほどまでの幸せの象徴が引きつった。

そしてそのまま一気に暗い顔になる。

「ねぇ、シディ?魔術以外にも楽しいことは

 あるのよ?」

「たとえばー、男の子なら汽車の運転手さん

 とか、船の船長さんとかね?」

ママは魔術という言葉から遠ざけるように様々な職業名を挙げていった。

汽車や船といった交通手段があるというのは今後のために知れて嬉しいが、

今はそれよりも魔術である。

「ねー、ママーそんなことより魔術ー。」

俺はあざとさマシマシでママにねだった。

「ダメ!!!」

だがシフィリアには通じなかった。シフィリアが大声を出すと同時に、

さっきまではなかった張り詰めた空気が生まれる。

「マ...マ...?」

「あ、ごめんなさ...」

シフィリアが二歳に満たない我が子にキツく当たってしまったことに後悔する。

「どうした?大声出して。何かあったか!?」

二階の自室にいたデアルにまで声が届いたのだろう。慌てて階段を降りてくる。

「いえ、なにもないわ...」

慌てたデアルにシフィリアが滅入った様子で返事をする。

「シディ...さっきはキツく言ってごめんね。

 でもママもちょっと考えたいから。

 今はお部屋に行っててくれる?」

「...うん。」

断れる空気ではなかった。

部屋に戻った後も魔術を教えて欲しいと言った時のシフィリアの泣きそうな顔が

頭から離れなかった。

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