自称天才プログラマ異世界に行く〜魔術をデジタルで捉える〜

@feinerl

シビュラ王国編

第1話 二進数のない世界

降り積もった雪も溶けきり、わずかに暖かさを感じ始める季節。

ついに俺は、工業高校を卒業した。

四月からはプログラマーとして

一般企業で働くのだが

まあ俺は誰かの下で終わるつもりはない。

確かに、高校で学んだプログラミング技術など一般人に毛が生えた程度だが

四、五年ほど鍛えてゆくゆくは独立し、

若手天才プログラマとして名を馳せるのだ。

きっと、いや必ずできる。

なぜなら、俺は天才なのだから。



卒業式後のクラス会は二十時からであり、

だいぶ時間が残っているため軽食を買いに

特別仲の良い友人である西尾と丸木と思い出話をしながらコンビニに行った。

「いやー、にしてもお前は最後まで

 学年一位だったよなー。」

「ふつうにすげぇよー。」

「まあ、俺とお前とじゃここの作りが

 違うかなぁ?」

俺はニヤケ面で頭を指差しながら煽った。

「お前!このぉお!」

「ハハハハ」

「確かにお前みたいなバカは中々いないよ

 西尾!」

「なに!おまえもか丸木!この!」

楽しい日々だ。こいつらと話してるとさっき

上げた目標や夢なんて、

どうでも良くなるほどに楽しい。

幸せだ。

「なぁ、西尾、丸木。ーーーーー」



なんだ?急に真っ暗に。何も見えない。

ビリッ

全身に突き刺すような痛みが走る。

痛い!こんな痛みは初めてだ。眩しい。

少しずつだが目が見えるようになってきた。

一体...何が。

そこには、胴から下が切り離されている自分の体があり、痛みの原因がそれであるのだと

すぐに分かった。

もう血などほとんど残ってはいないが痛みと

通常想像し得ないその光景に血の気が引いた。

それと同時に再度瞳が光を受け付けなくなる。

ハハ、なんだよこれ。わけわかんね。

確かに今日は嫌な予感がしたんだ、俺の説明口調も日記みたいな思考も急な思いつきだった。

まるで、何か見えない力があるみたいに。

って、ここに来て厨二病かっての...。

ていうか、俺特別でもなんでもなかったな。

普通に死ぬじゃん...。

あーあ。つまんねーの...。


ブツンッ


「△⚪︎〇〇⚪︎××」

なんだ?うるせぇよ。俺は死ぬんだからせめて静かにしてくれ。つっても声も出ねぇけどさ。

「〇〇⚪︎⚪︎◻︎⬜︎××」

うるせぇな、わかんねぇっての。

「×××〇〇⚪︎⚪︎⬜︎▫︎」

あーもう!

「ぅぁあぁあああ!!」うるせぇっての!!!

!?!?!?

今の声俺のか?随分俺の声より高かったけど...いや、でも確かに

俺の喉から出た感覚があった。

ていうかさっきまであったはずの痛みがない。なんでだ?

ひとまずもう一回

「うぁうぁぁぁあああ!!!」

おぉ!!これは俺が出してる声だ!

それに、体の感覚に集中するとさっきまで

なかったはずの手足の感覚がある。

目も開くんじゃないか?長年放置していたジャムの蓋を開けるように根気強く目を開けようと試みる。

ピクッピクピクッ 

パチッ

両目を淡い明るい光が突き刺す。しばらくすると二つの影が見えてきて、

次第に影がはっきりしてくる。

なるほど。自分は特別でもなんでもないと

さっき言ったばっかだが。

その特別でもない俺でもわかる。

俺は一度死に生まれ変わったのだ。

また、人として新たに生まれたのだ。

そして目の前にいるこの2人はおそらく

俺の母親と父親だろう。

「〇〇××△△×」

ただし言語は一切わからない。

所詮工業高校の一位なんてこんなものだ。

異国語どころかたとえ英語であったとしても

意味は理解できない。

これは、参ったな。


三ヶ月後


と、思ったのだが思いの外、

言語の問題に関してはどうにかなりそうだ。

赤ん坊の体という何もできない状態であるため言葉以外に特に外的情報がないからか

子供の頭が柔軟だからなのか、三ヶ月もすると固有名詞はいまだに曖昧だが両親の日常会話

くらいは理解できるようになった。

この分なら一歳になる頃にはマスター

しているだろう。

一歳にしてバイリンガルとは中々に

アドバンテージが大きいな。

前世はただの人で終わってしまったからな。

今世こそは何者かになってやる。

海外のようだし大統領というのも

悪くないかもな。フフッ。

ちなみに社会科は苦手だからどれほどの数の

国が大統領制をとっているのかは知らない。

と、話は変わるのだがここに生まれて三ヶ月ほど経ったが疑問が一つある。

というのも、この家及び窓から覗ける範囲の

周辺にはおよそ機械文明というものが

見当たらないのだ。

確かに赤ん坊の俺の視野なんて限られては

いるのだがそれにしても三ヶ月も授乳やら

入浴やらで視点が変わっているのにもかかわらず一つもないのはおかしい。

風呂は焚き火のようなもので沸かしていたし、リビングにも電球なんかはなく、

明かりは全てロウソクだった。

もしかして文明の発達していないクソ田舎に

生まれ変わっちまったのか?

俺の前世で学んだプログラムの知識も

無駄になってしまうほどの。

おいおい、それは困るぜ。才能あふれる若者が田舎で埋もれちまうなんてのはよく聞く話だ。

こりゃ、日本に移住も...うぐぅっ!!!

強烈な便意が俺を襲う。

困ったことにこの体は突発的に我慢が

効かないんだ...

これは母親を呼ぶしかない...

「うぁああぁうぅうああぁうぁぁ!!!!!」

秘技 フライングコール!!!

この三ヶ月で俺が編み出した技だ。

通常赤ん坊は漏らしてから泣き出すが、

俺は臭さと気持ち悪さが我慢ならないんでな、

先に呼んで少しでもおしめを変える時間を

早めるのさ!!!

うぅっっ!!!

ふぅ。

最悪の気持ちだ気色の悪い感覚が尻に

張り付いている。

第二の母上よ早く来てくれたまえ。

「んーー?どうしたのシディ。」

金髪の長い髪を後ろで一つにまとめた女が

軽やかな歩みでベビーベッドに近付く。

この金髪の女性が俺の第二の母である。

そしてシディとは俺のことである。

正式名称をシデアと言うらしい

家名は知らない。ないのかもしれないし、

少なくとも聞いたことはない。

ついでに俺は第二の父母の名前も知らない。

教育が徹底していのだろう俺の前では彼らは

お互いのことをパパ、ママと呼び合うのだ。

まあ下手げに名前で呼び始めるのを

防ぐという点では良いであろう。

俺も彼らの教育方針に従いそれぞれ

パパ、ママと呼ぶことにしよう。

というかそんなことはどうでも良いから

早くおしめを取り替えてはくれないだろうか

ママよ。

「どうしましょ。替えのおしめがどれも

 洗濯したっきりまだ乾いていないわ。」

!? なんだと、、、それは困るぞ。

こんな気持ちの悪い感覚はもう勘弁だ。

だからあれほどオムツは紙にと...

「あ!そうだわ」

何か思いついたような反応をするとママは

干してあるおしめの方へと向かって行った。

何をする気だ?ドライヤーもなしに

どう乾かすというのだね。

ママは手を前に突き出しおしめの方へ向けた。


「「気まぐれの精よ 花々のため 従い導け」」


ママの口から発せられたその言葉のすぐ後に。

通常吹かないような強風が我が家の

リビングに吹く。

!!?!?なんだ今の風!

「よし!!乾いた!」

「ごめんねーお待たせシディ」

そう言って笑顔でこちらに向かってくる。

あたかも先ほどの風が当然であるかのように。

ベビーベッドに寝かせられているため、

状況を確認することはできなかった。

だが、肌でたしかに感じたのだ。

おそらく魔法と呼ばれるであろう超常を。

そうでないと説明のつかないものを。

確かに、ここは俺の学んだプログラミングの知識なんて使えないのかもしれない。

それどころか二進数すらないかもしれない。

でも、構わない。プログラムなんかよりも、

大統領になることなんかよりもよっぽど

面白いものが目の前にある。

この世界はおそらく俺を特別にしてくれる。

おもしれぇよ。

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