過去と未来をつなぐ旅路に、新たな仲間と挑む未解決の謎。悠久の魔導師エリゼが、フリーレンと共に闇の陰謀に立ち向かう。

湊 町(みなと まち)

第1話 序章

400年の時を経て、魔王討伐の英雄たちの伝説はすでに遠い過去のものとなり、人々の記憶の中で淡い影となっていた。その伝説の中に名を連ねる一人、エリゼ・ラグランジュは、静寂とした森の中を歩いていた。彼女の歩みは悠然とし、その瞳には数百年にわたる知識と経験が宿っている。


森は緑豊かで、木々の枝葉が風に揺れて静かな囁きを奏でていた。エリゼの長い銀髪は、太陽の光を受けてキラキラと輝き、彼女の存在が自然と調和しているかのようだった。彼女の歩み一つ一つが、この世界に深く根を下ろしていることを感じさせた。


「ここも変わってしまったな……」


エリゼは呟きながら、かつてこの森を共に歩いた仲間たちの姿を思い浮かべた。彼女の仲間たちは皆、普通の人間の寿命を全うし、すでにこの世にはいない。しかし、エリゼは長寿の魔法によって、今もなお若々しい姿を保っていた。彼女の心には、過去の仲間たちへの深い愛情と、その死を見届ける度に感じた孤独が交錯していた。


彼女の目的地は、かつての仲間の一人、リデルの墓であった。リデルは勇敢な戦士であり、エリゼと共に数多の戦いを乗り越えてきた。彼の墓に辿り着くための道のりは決して容易ではなかったが、エリゼにとってこの旅は彼の思い出を再び追体験するための重要な儀式でもあった。


森の奥深くへと進むエリゼは、次第に周囲の気配が変わるのを感じ取った。木々の囁きは消え、静寂が支配する中で、彼女の感覚は研ぎ澄まされていった。その時、突然の気配に彼女は立ち止まった。


「誰かいるの?」


エリゼは声を発し、魔力を手のひらに集めた。彼女の魔力は穏やかでありながらも、決して軽んじることのできない力を感じさせるものだった。すると、静寂を破るかのように、木々の間から一人の女性が姿を現した。


その女性は、長い金髪を持ち、鋭い瞳でエリゼを見つめていた。彼女の名はフリーレン。1000年以上生き続けるエルフの魔法士であり、エリゼとは異なる形で長寿の人生を歩んできた存在であった。


「あなたも、旅をしているの?」


フリーレンは静かに尋ねた。その声には、長い年月を経て培われた落ち着きと知恵が滲み出ていた。エリゼはその問いに微笑みながら頷いた。


「ええ。仲間たちの墓を巡っているの。あなたは?」


「私も同じようなもの。過去の仲間たちの思い出を辿りながら、新たな旅を続けているの」


二人は互いに見つめ合い、言葉を交わすことなくお互いの理解を深めていった。長寿ゆえの孤独と、仲間たちとの思い出を胸に抱える共通の感覚が、二人を自然と引き寄せたのだった。


エリゼは静かに息をつき、過去の思い出が頭の中で鮮明に蘇るのを感じた。彼女はフリーレンに向かって手を差し出し、心からの友好の意を示した。


「共に旅をしませんか?私たちの過去と未来を繋ぐために」


フリーレンはその手を取り、軽く頷いた。「いいでしょう。共に歩むことにしましょう」


こうして、二人の魔法士は共に旅をすることとなった。エリゼにとって、フリーレンとの出会いは新たな冒険の始まりであり、長い旅路における新たな希望の光であった。


彼女たちの前には、まだ数多の困難と謎が待ち受けていた。しかし、互いに支え合うことで、その困難を乗り越え、真実を見つけ出すことができると信じていた。森の中を進む二人の姿は、まるで時を超えた絆が新たな冒険へと導く象徴のようであった。

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