第3話 コーラ

「気になる飲み物を見つけてしまいました……」


 あくる日の昼休み。

 

 隣の席のシャノンさんが、そう言って食後に取り出したのはペットボトルのコーラだった。


「色付きの炭酸水だそうです……異世界では高級な贅沢品と言われている炭酸水が湯水のように売られているのですから、この世界はとかく恐ろしいものです」


 異世界だと自然に湧いてる炭酸泉くらいしかないのかもな。


「やんごとなき私でさえ、炭酸水とは縁遠くコレが初めての飲む機会となります」


 ほう。


「噂によれば、炭酸飲料はデュワっとしているそうです」


 ウルトラマンかな?


「さて、私もデュワっとした感覚を味わう時が来ました」


 シュワッとね。


「ではまず――振ります」

「ダメ!」


 俺は間一髪シャノンさんの手首を握って凶行を止めることが出来た。


「振るな!」

「え、おしるこの缶ジュースを買ったときはよく振ってからお飲みくださいと書いてありましたよ?」

「それはおしるこだから! これはコーラだから!」

「コーラを振ってはいけないのですか?」

「ダメ絶対!」

「振るとどうなるんですか?」

「噴き出る!」

「ふむ……では確かに振ってはいけませんね」


 良かった、分かってくれたか……。


「しかしジンさん、わたしは研究者気質なので自分で見たモノしか信じられません」


 え?


「シャカシャカシャカシャカ」

 

 ――いやああああああああ振り始めてるぅぅぅぅう!!!


「総員退避! たいひーーーーーーーー!!!!」


 俺がそう叫ぶとクラスメイトたちが悲鳴を上げながら廊下に逃げていった。

 俺も廊下に逃走してから、


「しゃ、シャノンさん早まるな!! その状態で開けるな! 開けちゃダメだ!!」


 制止の言葉を掛けてみる。

 けれど、


「ご心配ありがとうございます、ジンさん。しかし私はどうしてもこの目で確かめてみたいのです。まだ見ぬ未知の事象や物品を味わうために、私はこちらの世界に留学しに参ったのですから」

「シャノンさん……」


 とめどない好奇心。

 シャノンさんを突き動かす原動力はそれなんだな……。


「ではジンさん、私がこのあとも無事でしたらまた仲良くしてくださいね」

「シャノンさん……やめろ。やめるんだ。気持ちは分かるけど、制服がベタついたら大変なんだぞ……」

「ふふ、心配するお気持ちだけ受け取っておきます。好奇心は――止まりません」

「――やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ぱしゅっ、とシャノンさんがペットボトルの蓋を開けた。


 そして――ぶじゅううううううううううううううう!!!!


 濁った泡の噴射がやんごとなきエルフの尊顔を襲い、シャノンさんは教室を汚した罰として無事反省文を書かされることになった……。

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隣の席のエルフさん ~現代社会に適応しようと頑張る亜人種のつどい~ 新原(あらばら) @siratakioisii

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