第2話 カップ麺

「さて……今日のお昼は噂に聞くカップ麺です」


 あくる日の昼休み。


 隣の席のやんごとなきエルフことシャノンさんが、ランチとしてカップ麺を取り出していた。


 まだ未開封の状態。


 縦長タイプの醤油ラーメンだ。


「ふむ……びにーるというヤツを剥がして、蓋を開けてみました。ここにお湯を入れて300年待つと出来上がりですか」


 干からびるわ。


「あ、3分のようです……人類は短命ゆえに生き急いでいるのですね」


 エルフの価値観……。


「さて、お湯を用意せねばなりませんね……水魔法の応用で簡単に出せますが、世界条約によりこちらの世界での魔法使用はなるべくやめてねとなっています。ゆえに別の方法でお湯を用意するしかありません……」


 どうするんだろう。

 学食に行けばポットあるけど。


「……まぁちょっとくらい魔法を使ってもバレないでしょう」


 あ、指先からお湯出し始めてる!!

 意外とワルだ!!

 誰も見てなかったら赤信号でも横断歩道渡るタイプ!!


「ふむ……この内側の線まで注げという話ですが、私はあらがたいので線よりもちょっと下で注ぐのをやめます」


 なんであらがうの?

 まぁ俺も少なめに注ぐ派だけどさ。

 その方が味濃く仕上がって美味しいよね。


「さて……この状態で3分。エルフにしてみれば一瞬です」


 ――1分後。


「ま、まだ1分ですか……!」


 意外とせっかち。


「別に1分でも大丈夫だったりしませんかね……?」


 チラ。

 チラ。

 ん……俺に問いかけてきてんの……?


「えっと、まぁ……もう1分待とう」


 さすがに1分だとカタめ過ぎる。


「了解です……」


 シャノンさんはグッと我慢の態勢。


 そして2分が経ったところで――


「――いただきます!」


 割り箸をぱきんっ、と割って、ずるっ、ずるるっ。

 カップ麺にこんだけがっつく人初めて見た……。


「あ――食用触手の細切りに似てる食感ですね!」


 ヤダ今度からカップ麺食うたびに触手思い浮かぶやん。

 てか触手食ってんの……?

 

「食用触手は高級品なので、これを実家に送ったら喜ばれるかもしれません!」


 高級品なんだ……。


「箱買い出来る場所ってありますかね?」

「え、ああ、通販で買えばいいと思う」

「通販って、いんたーねっとというヤツでしたっけ? 私、使い方がイマイチよく分からないんです」

「あー、だったら教えるよ」


 ネット使えないのは大変だしな。


 こうして食後――


「えっ、ここがこうですか?」

「そ、そう……」


 通販サイトへの登録から教え始めているんだけど、物理的な距離感が近くてビビる。椅子を密着させられていて、肩と肩が触れ合うどころか半身をグイグイ突っ込まれて訊かれている。


 良い匂いで役得だけど、周囲の野郎どもの視線が険しくなっているのが怖い……。


「私まだ日本語の読み書きは苦手なので、今後もこういうところで助けていただいてよろしいですかっ?」

「そ、それはもちろん……」

「ありがとうございますっ」


 華やかな笑顔が間近で炸裂。


 まぁこの役得っぷりなら、多少のやっかみは屁でもないな……うん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る