隣の席のエルフさん ~現代社会に適応しようと頑張る亜人種のつどい~

新原(あらばら)

第1話 おにぎり

「これが噂に聞くおにぎり……どうやって開けるんでしょうか」


 西暦2028年。

 突如として時空の裂け目が出現し、この世界は異世界との繋がりを得た。


 その5年後の2033年現在。

 異世界人との平和的交流が活性化し、裕福な家柄の子がこっちの世界に留学してくることが珍しくなくなった。


 俺こと上杉うえすぎじんが通う高校にも、何人か亜人種の子が留学に来ている。


 俺の隣の席には、そんな亜人種の1人が居る。


 エルフのシャノンさん。


 見目麗しい長い金髪の美少女。


 丸顔で、背丈は並み程度。


 綺麗系というよりは可愛い系。


 尖った耳がチャームポイントで、性格は温厚。


 2年への進級イベントがあったこの4月上旬に留学してきて、まだこちらでの生活は数日程度だという。


 よく分からないが滅茶苦茶高貴な家柄だそうで。

 粗相なきように過ごせとお達しが出ている。


 その影響でクラスメイトはあまり近寄れていない。

 もちろん俺もだ。


「ふむ……この1と記されているところから破けばいいんでしょうか」


 現状は昼休み。

 シャノンさんはコンビニで買ったと思しき三角おにぎりを取り出している。

 そして、開け方に迷っているようだった。


「複雑怪奇です……どうしてこんなに面妖な包装になっているのでしょうか。広葉樹系の葉で巻くだけではいけないのですか?」


 衛生的にいけませぬ。


「ふむぅ……とりあえず1のところをつまんでみましょう。これは下にピッと引けばいいんですかね」


 その通り。


「お……1をピッと引いて破いたことで、包装の中心が裂けました。これはもしや、あとは2と3をパージするだけで食べられるようになりそうです」


 順調だ。


「で、ですがコレ、2と3は素直に2からパージすればいいんでしょうか。それとも2と3は同時にパージせねば開封の儀に失敗したと見なされて呪いが発動したりするのでは……」


 疑り深いな異世界人。


「こ、怖いです……私が購入したのはすじこですから、開封の儀に失敗した場合すじこの呪いで子供が産めぬ身体にされてしまうのでは……」


 その発想の方が怖い。


「……あのさシャノンさん、別に順番は気にしなくて大丈夫」


 たまらずアドバイスをした。やんごとなき存在に恐れ多いが。


「え、本当ですか?」

「ああ。強引に3からでもいいけど、素直に2から行っとくのがスムーズ」

「なるほどですっ」


 俺のアドバイスを受けて、シャノンさんは三角おにぎりの2からパージ。

 続けて3もパージしたところで――


「――あっ、海苔が破けて3の部分に取り残されてしまいました!」


 事故っていた。

 

「あわわわわわこれは海苔の呪いで天罰が――」

「そうはならんから!」

「……本当ですか?」

「ああ。こっちの世界には魔法とかないし」

「よ、良かったです……」


 ほっと胸を撫で下ろしたシャノンさんは、


「あの……これからも分からないときは助けてもらってもいいですか、ジンさん」


 と言ってきた。


 ……俺の名前が覚えられていてビビったし、頼られたことにもビビった。


「まぁ……シャノンさんが俺でいいなら、別に」

「はいっ。じゃあ今後もお世話になりますね!」


 そう言ってくれるのは嬉しい。


 けど、クラスの男子が険しい視線を俺に向け始めているからほどほどに頼む……。

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