後日、裁判所にて。


「さて一人目の被疑者・黒田由紀夫さん、あなたは田森家に押し入り、金品を強奪したのみならず、田森家の方々・ことにご子息であらせられる宏斗さんを襲ったということが、捜査の結果の通り明らかですが、間違いありませんか」


「はて、何のことで?」


声から、これが男その一のものだとわかった。モネの左肩がぴくっと一瞬動く。


「では二人目の被疑者・植垣英人さん、あなたも押し入りを働いたことはないと主張されるのですか」


「まったくその通りです。そのような悪事はまっっったく覚えがありません」


(こいつは二人目だったな、確か)


次いで、呼んでもいない三人目の強盗が言う。


「敏腕裁判官と呼ばれる近森様とは思えませんね」


沈黙を守るモネ。


「若くしてエリートになったからってお高くとまりやがって」


(嫉妬ね。あからさまな)


そう発言した男を、汚物を見るような目つきで見おろすモネ。野次が始まる。


「俺等がやったって証拠を見せてくださいよ! なら認めますけどね」

「そうだそうだ!証拠を出せ!」

「まさか証拠なしに判決を下すってつもりじゃああるめぇな」


モネが静かに言う。


「静粛に願います」


参考人の席に座っていた宏斗くんが突然叫びだす。


「吟さんです! あの時、うちで助けてくれたのは『吟さん』って自分を呼んでいた人です! その人が証拠になるはずです」


黒田が口を開き、さも馬鹿にしたような高慢な口調で、


「ではその、吟さん、とやらを呼んだらどうですか?」


ぐふふ、と厭らしい含み笑いをする被告人達。


「そのガキの言う通りだ、吟さんを出せよ!」

「吟さんがいるなら俺らの潔白を証明してくれるよォ」

「呼べよガキ、てめぇの言うその吟さんってやつを!」


すると突然、モネが大音量で叫ぶ。


「うるさいんじゃお前ら! 黙って聞いとったらのべつ幕なしに喋りまくりやがって!」


裁判所の空気がその啖呵で一瞬凍りついた。

そして立ち上がり、静かに右手の平を左手の甲にあてがう。


「カメラも無いんやったらしゃあないやろ。フルフェイスで隠して見えへんかったんならそれもしゃあないやろ。でもなお前ら、あの大立ち回りの最中、見事に咲いた如月の、儚くも艶やかな紅の華」


モネは右手を左手の袖に添え、上へ上へとゆっくりたくし上げてゆく。すると!

その見事な梅があしらわれた腕!---その見事な咲きっぷりといったら---!

モネは梅のタトゥーを露にさせたまま叫ぶ。


「これでも忘れたって、惚けるつもりなんかい!」


男たちは皆、一様に肩をだらりと落として観念した様子で。


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