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同月9日。聖マリア学園、昼下がりの教室にて。
モネは独り、校舎の窓から眼下の校庭を眺めて黄昏れていた。
記憶は数年前、軍人だった父親にサイレントキリングの術を教わったころに遡っていた。
「何故そうまでしてこの格闘術を学びたいって言うんだ」
「お父さんだって知ってっしょ、友達が小学校で撃たれたあの時の事」
「…ああ、だが、かあさんが黙って許すと思うんか」
「じゃあ、あたしが黙って嫌な過去と過ごすのを、お父さんは許すの」
「……」
そしてしばらく、訓練が始まった。
実戦形式で、数名に分かれて、武器…ナイフや実弾を含めた本格的なものだ。
過去に何度も重症の負傷者や、数え切れないほどの死人を出している。
モネは、父親のことを「師匠」として親しみながら訓練に明け暮れた。
数ヶ月目のある模擬戦にて、事件が勃発する。
相手のサバイバルナイフによる味方への攻撃を防ごうと──この味方とは、モネの友人だった──、左肩から左腕にかけて大きな裂傷を負ってしまったのだ。
☆☆☆
「よっ、モネ」
声をかけてくる生徒がいた。同じクラスの親友の一人・
「あ、恵じゃない」
「遅刻しまくっちゃった」
恵には妹がおり、その妹さんはなんと宏斗の恋人だという。
「宏斗君、大丈夫? 怪我ない? 腕、痛そうじゃない? 頭、痛くない?」
「だーいじょうぶだって、モネ。人には興味なさそうなのに、心配がるのね」
「ちっちゃい子…特に宏斗君くらいの歳の子怪我さすなんて、あたしは絶っっ対赦さんもんね」
「モネ、ブラコンだもねぇ」
(宏斗君を狙ったなら…妹さんにも手が出る可能性がある。それだけは避けたい)
「ちーがーうっ!」
顔が赤くなっていないか確認したくなるモネだったが、
「最近ここらで頻発してる手口に似てる。恐らくは、同一グループの犯行やね」
落ち着き払ってそう言った。
モネは何かを言って様子を見るだけの人間ではない。教会の牧師先生には、口を酸っぱくしてこのように言われていた -- 行いの伴わない信仰は死んでいる、と。
宏斗とめぐみ、そしてその妹さんの身を案じ、モネは単身この件について調査をはじめることにした。
☆☆☆
自宅の書斎で、今回の件について図案やら文書やらを書き始めるモネ。
お気に入りのピロートのボールペンを手の上で器用に回しながら思案する。
田森家のパソコンが使うサーバーへの不正アクセスが判明したのが1日。
自宅セキュリティシステムへの外部からの物理的オーバーライドがあったのが4日。
最初の襲撃が7日。
警備会社の各住居別サーバーへの干渉が確認されたのが10日。
(きっちり3日ごとに行動しとる、か……でも待てよ)
"盗まれたものはジュエリーボックス1点と金庫ひとつのみ" とあるメモに目をやる。
(盗まれた額は以外に少ない…金庫も全部奪わんかった。
となると、また来る可能性は大いにある。それも…おそらく明々後日か)
その読みは見事に的中するのだった。
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