第4話 危機一髪

「……どーするかァ」

「ヒロ、そろそろ起きなさい、学校よ!!」


 一階から、ヒロを呼ぶヒロの母の声がした。


 ビクッと、ヒロは驚き、


「おっ、おう……す、すぐ行く!!」


(この姿を見られちまう!! くっそ、どーする?)


 全身から冷たい汗が溢れ出す。


 階段を登る音がする。


(ガチか……)


「ヒロ、早く起きなさい」

「だだだ、だから、起きてるよッ!! へ、部屋にだけは入るなッ!!」

「もう、何してるの? あっ!!」


 ヒロの母は何やら気づいたようだ。


「ごめん、朝からシてるのね」

「ちッ、ちがーうッ!!」


(くっそ、変な誤解をしてるなァこれ!! 早く戻りやがれ。戻れー戻れー)


「ヒロ、こんにゃくあるけど使う?」

「だから、そーいうのじゃねェッつッてんだろオオオ!! どこからそーなる!?」


 シュウウウ、とヒロの身体からは煙が発生した。


「お、お?」


 腕を見ると、人間の身体に戻っていた。


 何が条件で戻るのだろうか。

 早くコントロールできるようにならなければ。


「朝ごはん冷めちゃうから、早く来なさいよー」


 と、ヒロの母は言うと、階段から降りていく音がした。


 ヒロの母が一階に向かっている音だろう。


「へッへーい」


(よしよし、もどッたかァ?)


 スマホで再度、自分の姿を見ると、いつも通りの姿に戻っていた。


 ふう、と一息吐くヒロ。


(あッ、あぶねー)


 なんとか、ヒロの母に見られることはなくすんだようだ。


 まだ朝起きたばっかりだというのに、身体がクタクタだ。


 その場にヒロは座り、


「制御できるよォになりてェー」


 制御できれば、この力は最強になることだろう。

 あの、ゴーレムをワンパンできたのだから。


「つッても、変身してるところ見られたら終わりだけどなア」



 学校へとやってくると、ヒロはいつものように2年D組の教室へ入り、自分の席に着く。

 

(放課後は森で制御できるように訓練だなァ)


 グッと、両手に拳を作るヒロ。


(もう、俺は一人前の冒険者になれねェ存在じゃねェ。なってやるんだよッ)


「なあ、聞いたか? キリコの森でゴーレムが出たらしい」


 ふと、後ろの席で喋っている男の声が聞こえた。


 ん? と、ヒロは耳を傾ける。


「あー、朝ニュースで観たわ。何者かによって、ゴーレムの顔面が粉々になって死んでたやつだろー」

「そうそう、キリコの森にゴーレムが出るのもおかしいが、それ以上にゴーレムの顔面を粉々にしている方がおかしい。ゴーレムの頭部を破壊できる力……A級冒険者以上にしかできない技だぞ」

「てことは、A級冒険者が近くにいるのか?」

「そーいうことになるなあ」


 冒険者にはランクがある。

 Fが最低であり、Sが最高だ。

 冒険者の平均はDランク冒険者であり、上に行くほど人口が少ない。

 A級冒険者は現在、五万人しかおらず、こんな資源も宝も何もない水原市にA級冒険者がいるはずがないのだ。


(そっか、言われてみれば、A級冒険者以上の力を俺は持ってるッつーことか)


「たまたまそいつがA級だったからいいものの、普通だったら死んでるもんな」


(その通りです。俺、死んでます……)


「キリコの森、ゴーレムの影響でしばらく入れねェみたいだ」

「まじか、あそこ弱え魔物しか湧かないから訓練場所にいいんだけどなー」


(ガチかよ。しばらく進入禁止だとォ……はァ、しょうがねェ。少し危険だが、シロタキの森に行くとするかァ)


 危険度Dのシロタキの森。


 少し危険だが、龍人になれるんだ、大丈夫。

 なり方は知らないけど。


 ヒロのこの選択が後に、自身の龍人の姿を全世界に知られるきっかけになるのだとはこの時のヒロは知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔力のない劣等冒険者と罵られている俺、実は【炎帝龍人エンテリオン】と恐れられている存在です。 さい @Sai31

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画