第2話 龍人

 手に持つのは木刀一本。

 

「勝てるはずねェじゃん」


 ヒロは手に持つ木刀を地面に落とした。


(そもそも、なんでこんなところにゴーレムがいるんだよッ)


 キリコの森は、危険度が最低のFランクなはずだ。

 なら、なぜD級の魔物が生息してる?


 ゴーレムと目が合った。


 全身が震え出す。


 死ぬのか。


 恐怖からヒロの顔は青ざめていた。


(逃げなきゃ……)


 足を動かそうとしたが、ガクガクと震え、まるで地面に接着されているかのごとく動く様子はなかった。


「だッ、誰か助けてくれよ!!」


 大声でそう叫んだ。


「あッ」


 気づけば、ゴーレムの拳が目の前にあり、


「ゴオオオオ──ッッッ!!!!」


 ヒロはゴーレムによって吹き飛ばされた。

 

 木にぶつかるが、勢いが止むことはなく、吹き飛ばされていく。

 また新しい木にぶつかるが、勢いは止まなかった。

 やっと、勢いが病んだのは、巨大な岩にぶつかった時だった。


 ヒロの内臓は破裂し、意識が朦朧とする。


 もう、死ぬのが近いのだと悟った。


 バタリ、とヒロは倒れた。


(いってェ、ああ、もう死んだなこれ……)


 身体中が熱い。

 眠りにつきたいというのに、激痛により目が覚める。

 

 目を閉じようとしたその時、


 ニョキニョキ、と一匹の赤い青虫が目の前を通った。


(見たことねェ、青虫だなァ……)


 青虫は、ヒロに近づき、傷口の中へと侵入していく。


 今までの激痛を超える激痛がヒロを襲った。


 ヒロは目を大きく見開いて、


「ガアアア──ッ!!」


 身体が燃えるように熱い。

 いや、違う。

 実際にヒロの身体は燃えていた。


 激痛に苦しむ。

 痛くて、痛くて、痛くて仕方がない。

 人生でこの苦しみを超えることはないだろう。


「死ねねェよな、このままじゃア」


 何故だろうか。

 負傷していた箇所が治っていた。

 痛みがない。


 気づけば、ヒロは立ち上がっていた。


 そこにいたヒロは人間の姿をしていなかった。

 全身が真っ赤な鱗のような姿となり、顔は恐ろしく、龍のようだった。

 いうのなら、ヒロは龍人のようだ。


「何がァ、起こってんのかよォ意味わかんねェけどさッ。やることは一つだよなァ……あいつをぶっ殺すだけだよなアアア」


 身体中から力が溢れ出す。

 今なら、誰にでも勝てそうだ。


 ヒロは走り出した。


 ヒロが走った道に生えた草たちは燃え、地面が丸見えになっていく。


 今までのヒロからは想像できないほどのスピードで、ゴーレムに向かっていく。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す──ッ!!」


 ゴーレムの姿が見えると、ヒロはおもいっきり地面を蹴りジャンプする。


「よくもよォ、俺を殴ったなァ?」


 そのまま、ゴーレムの顔面に向かって殴りかかった。


 ボリボリボリボリ──ッ!!


「ゴオウ──ッ」


 ゴーレムの顔面が粉々なった。


(つ、つエエ。何がどーなってんだよォこれ)


 地面に着地し、ゴーレムの胴体に向かって拳を入れた。

 胴体には大きな穴ができ、ゴーレムはその場に倒れ込んだ。


「はあはあはあ……なんだ、どーなってやがるんだァ?」


 自分の手を見て、ヒロは気づく。

 自分が人間ではない何者かになっていることを。


「どーなッてんだよ、これ……」


(俺がゴーレムを倒したのか? どーやって倒したんだ?)


 ただ殴っただけでここまで粉々にできるのだろうか。


「わッかんねェけど、俺、完全に強くなったなこれ。あの青虫みてェなのが俺の身体に入ってだよな? まッ、深く考えなくていっか。俺、強エーし!!」


 この日、ヒロは人間を超越した存在となったのだった。

 

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