魔力のない劣等冒険者と罵られている俺、実は【炎帝龍人エンテリオン】と恐れられている存在です。

さい

第1話 劣等冒険者

「……おいおい、どーなってんだよォ?」


 森のトイレにある鏡に映る自分は、人間の域を超えていた。

 真っ赤な皮膚に鱗。

 歯は尖り、その姿はまるで龍人だった。


「俺、なのか?」


 鏡の前にいるのは自分なのだから、他の選択肢などない。


 どうしてこうなった?


 ただ、頭の中には疑問だけが浮かんだ。


 身体中からは冷たい汗が溢れ出す。

 ドクンドクン、と心臓の鼓動が早くなっていく。

 

 はあ、とため息を吐いた後、


「どうやって、元の姿に戻すんだろ」


 ボソリ、とそうつぶやいた。



 三時間前──


「穂村ァ、また冒険者試験ゼロ点だぞ」


 放課後のこと。

 教室にて、穂村ヒロは担任の教師、鈴木先生にいつものように説教をされていた。


 いつものこと。

 教室にはクラスメイトたちが残っていたが、誰もヒロのことをみなかった。


「劣等冒険者……冒険者界隈は完全実力主義なんだよ。だから、何を言われても仕方がないぞォ」

「うるせェな。俺は魔力がねェんだから仕方ねェだろ!?」


 冒険者。

 魔物から人々を守ったり、ダンジョンでお宝を見つけだす。

 そんな職業だ。


「冒険者にとって魔力は命同然なんだぞ?」

「そのくらい知ってるっつーのォ」

「なら、穂村。冒険者を──」


 鈴木先生が何を言うのか、すぐにわかった。


「やだねェー。俺は諦めねェよ、S級冒険者になってやるっつーのォ」


 はあ、とため息を吐く鈴木先生。


「もうこれ以上言っても、仕方がない。わかった、好きにしろ」


 水原冒険者高等専門学校。

 名前の通り、冒険者の養成を目的とした高等専門学校だ。

 偏差値は55。

 現在、世界に十五人しか存在しないS級冒険者の一人、光崎セイトの母校である。

 そのため、毎年、倍率は鰻登り。

 セイトの活躍によって、どんどんと知名度が上がっている場所だ。


(ふん、何が劣等冒険者だよ。言ってやがれよォ、なってやるんだよぜってェにな!!)


 などとイライラしながら、ヒロはポケットに手を入れて廊下を歩き始めた。


 ヒロは魔力がない。

 生まれながらにして、身体に魔力を貯めておける臓器が存在しないのだ。

 こんな人間、世界でヒロただ一人だという。

 そのため、今の所、対処法など存在していないのが事実だ。


「いや、なれねェな……」


 今までは何度もなれると、自分に言い聞かせてきたわけだが、ヒロは気づいてしまった。

 自分の冒険者としての才能はない。

 冒険者にはどう頑張ってもなれない、ということを。


「哀れだなー、俺って」


 この先、なれる気が一切しない。

 頑張って入学したけど、ふつうの高校で平凡な日々がお似合いだった。


「もうやめーた。冒険者なんて」



 キリコの森──


「うおおお──ッ」


 ヒロは一本の木に向かって木刀を振った。

 手はマメが潰れ、傷だらけだった。


 振る。

 何度も、何度も。

 振る。


 何のために?

 自分を正当化するためだ。

 こうして頑張っているんだと、納得させるため。


「毎日毎日、こうやって頑張ってんのに、なんで俺はこんなにも哀れなんだよ……」


 目からは大量の大粒の涙が溢れ出す。

 鼻からは滝のような鼻水が出てきた。


 胸が苦しい。

 息苦しい。


 こんな気持ち、今までにもあった。

 ただ、今回はいつも以上に辛い。


「アアアアアアア──ッ!! 苦しい苦しい苦しい苦しい」


(あれ、そもそも俺ってなんで冒険者になりたいんだっけ?)


 ふと、そんなことを思った。


 いつのまにか、冒険者を目指すようになっていた。

 一体なぜ?


 罵られても、諦めずにいた理由は何だろうか。

 きっかけは?


「もう、なんもォわっかんねェや。ははは、冒険者に憧れるなんてェやめようかァ」


 ヒロは、冒険者を諦めた。

 その時だった。


「え?」


 ガサガザ、と木々の中から音がする。

 少しすると、目の前には全身岩の二メートルほどの魔物が立っていた。

 ゴーレムだ。


 おかしい。

 こんな森にゴーレムなんて強い魔物が生息しているはずがない。


(ああ、死んだ……)

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