追いかける夢から夢へ
@DojoKota
全話
これは何の話なのかな。知らないです。知らないよ。学校の廊下は走らないです。
知らない世界の立てる音がします。
そして、知らない世界が立っているからその影が伸びていますどこまでも伸びてゆきます。
その音。その昔。その音。音速の昔。その影。その影響。影の響き。
オトシモノみたいな音です。お年頃の私です。お年玉な私です。
そうなのかな。どうですか。そうですか。そうですね。違うかもしれない自信がないないです。
何の自信なんだろうそれはクラゲみたいな境界線ですクラゲは水とクラゲの境界線です私はその境界線の上にいます私は私がすべて嘘かもしれないって気分がします。
たしかに大したことがあるように私は今すぐには死にそうにないほどには若いんですがはしゃいでいますが私には若いという字が石の上に草が生えているとイメージしますだからならそれは苔じゃないかなと思います。
コケティッシュってすごく柔らかいコケみたいな肌触りのティッシュですよね最高級日用品です。
あるいは生まれきてさほど年数の経っていない私の人生が折り返されて折りたたまれるはるか以前の私のでも八十歳になっただろう私にはでもそれぞれの私さんは線路のように地続きで私が死ぬ時も私は私のまんま、そうですそれは怖いことだと思います。
私は私の全てを私として私的に私の人生を経験します。
では。
それはさておきとしましょう。
ところで、音です。
そんな音とそんな音を追いかける私と私とを包み込む影と私とを包み込む影の中では寝るようにはじける音とはじける音の中でかすかにだけれども揺れるとても大きな漆黒のヴェールじみた影でした。
揺れる、とは、缶ジュースをとても強く揺すって溢れ出る炭酸のようです。
音は、こととん、という音でした。
一方影は、擬音では表せない影、強いて言うならじざざざって感じでした。
こんとんと言う音がします。
混沌?そうかもしれないのです。
ここんとこと言う音がします。
ここのところ?最近どう?という意味かもしれません。
きっとそうです。
ですが私にはそれには答えられません、私には近況がないのです。
じざざざざという影の中で音がするんですジザザザザという影の中でする音です。
こんとんとことんとんこととんとことことんとんことんここんとことことんこんとんこんとん。
って。
それは一連の文のように句読点もなく続いて行きますが、雨だれというわけではないのですが、私はその音の一音一音に足跡を擦り付けて歩いていくって感じでしていて、私の足跡からは足音は発生しないです、真水と炭酸水の違いのように音がしたり音がしなかったりするようです。
私の体重はこの世界に比してとても軽いから、だから私は私の強い意志を伴わなければ物音一つ発せられないから、物がガタガタ言っているのです、何に音を発生させるのでしょうか、何かに、私にはわからないだろうけれどそう予感だけは致します。
私は電車を待っているはずでした。
だって私は通学の途中だったからです。
だけれども、急に太陽が沈みました。
太陽が沈むとあたりは鉛玉のように鈍重な黒になりました。
電車だってやってくる気配はなかったんです。
駅員さんも他の乗客もハリガネムシのように互い違いに絡まりあって毛玉となったような気配がしました、エキィンジョォキャァク、真っ暗闇じゃ正確なことは知れないけれども正確なところはわからないのでした。
ともかくともかくです私以外のその他諸々は互いの引力に引かれあい小さな玉をそこかしこに形成するばかりでした。
そんなだったから私は、なんのために待っていたのかはすぐ忘れて、学校へ向かう途中だったのかなそうですか学校からの帰り道だったのかなそうかもしれないですか二つに一つだとしても肝心のそのことがわからなくなってしまって、学校がカギカッコになって「うわああああああ」ならぬ学うわああああああ校って叫びながらうろたえたくになってきていて、つまり、焦っていたのです、だとしても、だってとてももう複雑な路線の乗り換えなのだもの、でも、あたりには代わりに音が響いていました。
私は、その音の後を追うことに夢中になっていたのですが音を追いかけるにはとてもとても早く走らなくちゃならない大変なんです私は歩くのをやめて走り出しましたでも疲れました陸上部ではないのです走って疲れては歩いて歩いて倦き足らなくなってまた走りました音は一定の速さでだから少しずつ音は私から遠ざかっていきました音を首と書き間違えたならば、ろくろっ首になるほど音は首みたいに遠ざかっていきましたでもよくよく考えてみれば音と首って書き間違えるほどには全然似ていません。
それは置いていかれるということなのでした。
音、お父さんに置いていかれることに似ていました。
私は荷物を下ろして素足になって地面はとても柔らかくでも砂浜みたいに走りにくいと言うわけでもないのでした。
私にはその頃色々と嫌なことがあって、それってつまり、ぎゅうぎゅうに自分が押し込められている気分があって、空き缶の中に自分の魂を吐き出して密かに捨ててしまうようなもので、魂は汲めど尽きぬほど溢れてしまうから何か手当たり次第に小さな箱状のものに吐き出して密閉するのだけれども、それゆえに、はじける瞬間というか、何事かに夢中になっていてその嫌な現実を忘れる準備というか、つまり走り出すには理由があったのでありますが、つまり、でも、やっぱり、目的などなくって、ただ闇雲に走り出してしまっただけだったのだと思います。
走りながら何かをするなどできなかったんです。
だって疲れてしまいますもの。
でも本当は、走りながら何かを撒き散らしたかったんです。
何かを撒き散らしながら走り散らすことは跳躍です散種です。
坂道を転げ落ちるみたくすごく勢いで走り出したかったのだったのです。
私が。
あ、待って、と誰かの声がしました、待ちなさい、って詰問です、どこへ行くの、って叱る声が、置いていかないで、待ってよ、って追いすがってきて、やがて聞こえなくなってしまって、とことん、こんこん、とんとん、混沌、と言う私が追いかけていたはずの音も聞こえなくなってしまって、あれ、と思うと息がすごく上がっていてでも静かで、シーンとしていて、シーンーンーシーンーンー、息もすぐにおさまって、私は一人へたり込んでしまいまして、誰もいない空白みたいな場所、に、多分空白みたいな場所に一人収まって、クローゼットの中みたいに、だって両手両足を伸ばしても何の閊えも感じないから、ぽつん、と、そう、ぽ、っっっっっつ、ん、と。
水滴みたいに。
しばらくそこでそうしていました。
だって、ほかにどうすることもできないし/できないじゃないですか、鼓動が鎮まるまで何もしちゃいけないって教わってきましたから、教わると襲われて終わってしまいます、今よりももっと子供の頃領域の話です。
そこで呆然としていると、木のように棒立ちになって口をあんぐりと開けていると、口を開けて荒い呼吸をしていると、私は、私の歯が全て抜けて、抜けた歯が空中に浮かんで輪っかになって、喋り出しました。
歯が抜けるときは少しだけ痛かったんです、ちくちくちくちくちく、としました。血は、溢れたかもしれないけれど、味はしなかったんです。
私はまだ幼かった乳歯と永久歯の境目にいたんですその時気がつきました、いえそれからだいぶ経って気がついたのかもしれませんがハンバーガーの肉のように思いが思い出に思い思いに挟み込まれているのです、分厚いヴェールです、乳歯が抜けたそこにはまだ大人の歯は芽生えていなくて顎と顎をかち合わせると、総入れ歯のおじいさんが入れ歯を外した時のように上顎と下顎がひっつきすぎてほっぺたにむやみに肉が寄って膨らむのでしたあれは見ているととても可愛いです。
触ると気持ちが良いのでした我ながら触ると気持ちよくって。
ところで、私の抜けた歯が、空中に浮かんで、キラキラと光って、金歯ではないんですが、星座みたいに連動してぱくぱくと口の輪郭で運動して、声帯なんてないはずなのに、ふいごのような音を立てて、喋るのでした、曰く、どうしたというの、何をそんなに驚いているの、私を見習いなさい、なさいをなさい、ってまるでお母さんの声で。
私は驚いていなかったから、その歯は私のことちゃんとわかっていないみたいだったけれど。
でも、その歯は私のこと気遣うように優しい声で話しかけていました。
あまりに優しそうな声だったから、ふやけたそうめんみたいでした、私は今更のようにひとりぼっちだってことに気がついて泣き出しそうになってしまって、うわあああああ、という衝動を飲み込んで、母みたいな歯の優しいそぶりに本当に泣き出してしまいました。
ところでいつ怪我をしたのだろう、父みたいな私から吹き出る血。生暖かい血。つつつつつつ、と垂れる、血血血血血血。
血が父みたいに私を抱きしめようとその面積を広げるのですが痛い。
カサブタが巨大な大陸となる暖かいけれどとても冷たくなる私の内側が冷たくなります。
それはとても痛いことでした。
怪我をしているの、その怪我はどれくらい酷いの、立てそう、立てないほどなの、どう、と歯が気遣わしげに言ってくれました私には喋ることしかできないっていう風に。
私は返事ができないでいました。
なぜって歯は歯があるから喋れるかもしれないけれど、一方歯の抜け落ちたばかりの私には、その抜け歯に慣れておらず、言葉がスカスカと漏れてしまうから。
そこで私は目がさめました。
でも、目が覚めた先は私の知らない場所で、そこも知らない場所で、どうしたことだろう、私はみんなと、すべてと、みんなと、はぐれてしまっていました。
私は起きている時より眠っている時の方が意識が明瞭とするのです、あ、今眠ったな、と、そして今、起きました。
波打際でした。
波がじゃぶじゃぶ私に降りかかってきました。
仕方ないですね。
私一人ぽっちで生きていかなくちゃならないですね。
私はポケットに両手を突っ込むとそこにはじゃらじゃらと小さな小石、じゃなくて、つるつるとした側とチクチク尖った側が戦闘的に両極端な大きめのビーズみたいな、取り出して見つめるとそれは多分だけれど私の乳歯でした。
夢の中で抜け落ちて私に喋りかけていた私の歯でした。
歯はちゃんと生えていましたが歯はちゃんと抜けていました。
夢を超えて私の元まで飛んできてくれたかのようでした翼もないくせに。
でも、私はもう乳歯の抜ける年齢ではないのだけれどもと思いましただって先ほどの夢の中よりも背丈が伸びているから太陽に届きそうなほど。
体の中で大腸が背伸びをしたほどに私は胴長の背丈のっぽでした。
抜けた歯なんかを始終ポケットにしまっておく持ち歩く習慣などないのだけれども、と思うと歯は私の目の前で、一枚一枚のお札にお金に変えていきましたまるでプリントアウトされるかのようにみるみるとひらべっちゃくなっていくのです私の歯が葉っぱみたいに。
どの歯も個性があるからなのだろう、全てのお札が違う種類で見知らぬ異国の本当にお金なのか怪しい数字だけが奇妙に踊る紙切れもありました。どうしてそうなるのかはよくわからないのです。
よくわからないのだけれど、もしかしたら、未だ夢の中なのかもしれないのです、でも、だとしたら、さ、肝心の私は電車の中ででも眠り込んでいるのかもしれないけれど、さ、さささ、さささささ、そんな迂闊なことするかな、衆人環視の中夢を見るほど眠りいってしまう私だったのかな、わからないです。
両手に持ちきれないほどのお金を握りしめて私は砂浜に寝そべっていますでも肝心の海がない砂だけあって、波音もあって、生首もあって、くらげのように生首が波音にたゆたっていて、でも海がなかったんですなぜって、水平線で空と海とが溶け合って、海のあるべき場所には空が空のあるべき場所には海がまぜこぜに混ざり合っていたから時間を測り始めたばかりの砂時計のように天上に海水がひたたっていて、塰って漢字みたいに、塰って感じみたいに、それはシャンデリアのようでしたあるいは規模こそ違えど、噴水を逆さ吊りにしたかのようでした、それがぽつんぽつんと水滴を滴らせて、つまりそれがとことことことんとここととんとことことんとんここんとことことんこんとんこんとんって音の正体でしょうか、溢れてくるのでした、そうかそれが先ほどから聞いた音、夢の中での音の正体、だから太陽が燃えにくそうでしたが光がどんどんしぼんでいくのだって周囲が水なのだもの太陽の周りが綺麗に水たまり。
四面楚歌で背水の陣。
浮き輪みたいに浮かぶ太陽。
カンテラくらいの光量になった太陽でした。
歩こう。
私は歩き出すことに致しました。
だって、ほかにやるべきことがないからです。
動くことくらいしか、やるべきことがないからです。
何をすればいいのかもわからなかった仕方がない出歩くしかないから。
散歩に出かけよう、誰に言うともなく言い聞かせるのでした。
散歩とは歩を散らすことです。
よたよたと歩くことですよったりで歩くことです。
言葉とは分解するとわけがわからなくなるいつものことです。
太陽を買いたくなりました。
こんなに金があるなら太陽を買ってペットにしてて名付けてもよいのでした太陽太郎と。
私はお金をばらまくと、海水に消えかけていた太陽が金魚すくいの黄金の金魚のように、ばらまいたお金は蝶のように舞い飛び、そうです水没する太陽は金魚のように慌てていましたすぐに私に買われたいらしく私の元まで転がってきました。
私の周囲だけ暖かくなって、私の足元数メートルだけあたりは真昼のように真珠のように照らされました。
もうだいぶ海水に侵食されていた太陽は私の背丈よりも小さくしぼんでしまっていました。
私はかわいそうにと思い太陽を抱きしめると半分燃えてしまいました、そうです私は蝋燭人間、半分燃えた私が半分太陽になり私は一人と半分になりました。
私の背丈だってそんなに大きいと言うわけでもなかったけれど、太陽より大きく成長したと言うことが何だか誇らしかったのですだから、太陽は私に影をつけることさえできませんでしただって太陽は私より小さくてとなると太陽が作り上げる私の複製の影なんかより私ははるかに影響力があるからです私が影なんかいらないと思えば、影もそもそも始めから存在できないのです。影は一切物音を響かせません。
私はお金を全て無くしてしまいました。
だって、太陽はペットにするにはとても高価で、私の持っていたもともとは私の乳歯だった紙幣は全て太陽の炎で燃え尽きてしまったからです。
私がそうして歩いていると四方八方から陽の光を求めて歩いてきた植物たちが私を取り囲むように繁茂するのでした。
だって植物だって寂しいから。
頭上を見上げると、太陽に照らされた海水がきららきららとまるで全てが鱗のように、輝くのでした色々なものが、です。
植物より私の歩く速度の方が速いのです。
だから、からからからからかんからかん、植物たちは一生懸命早歩きで小走りで種や実をゆさゆさと揺すってこぼしながら進みました。
私は集まってくる植物の実を手当たり次第にもいでは食べ、食べてはもいで、大半がとてもじゃないけれど食べられたものじゃないのですごい味がしたけれど、それも記憶にこびりつく思い出というもので、犬に懐かれているみたいで嫌じゃなかったんです。
でも、太陽に近づきすぎた植物から順次燃えていくのはかわいそうでした。
飛んで火にいる夏草でした。
それではいずれ山火事になってしまいます。
私は悲しくなってふっと立ち止まってしまいました。
するともうどこにも進めないほどの圧迫感で植物たちが互いに絡みあい私と太陽を取り囲んでしまっていました。
蒸し風呂のように熱くなっていたのでした。
でも、それは優しい手のひらのようでもありました。
私は小鳥のような気分になりました。
気分になって飛び立ちたい鳥でした。
私はどうしようもないから、立ち尽くしてしまいました歩くのだって疲れるからちょうど良い休憩でした。
私が苦しんでいるからでしょう。
海にだって心があるんだ、そんなに苦しんでいるならいっそ溺れてしまえとでもいうように巨大な塊となって水が降ってきました。
太陽がふしゅんと燃え尽きるには十分な量の水で、まるで私は水に食べられてしまうかのように溺れましたでも溺れる私に飲み込まれるのがその水でした私の肺臓が水浸しです悲惨です。
相食む関係でそしてそのまま私は水面張力と言うのでしょうか、空にアメーバ状に張り付いてた海水に引き上げられるように空に浮かび上がり、燃え尽きた太陽は、ただただ枯れ木のような色をしたボール球で、なんだかこれじゃもう誰も太陽のこと思い出せないよというくらい見る影もなくなっていました。
私は思うんです。
寂しいとはどういうことだろうかって。
でも、寂しいは苦しいじゃないようです。
私は溺れているのに寂しいばかりで苦しくはなくって、それはなぜかというと、海の中には風が吹いていたからです。
その風に全身を震わせていると、まるで呼吸でもしているかのように呼吸なんかできなくても、海水に全てを浸して侵されてしまっていても一向に構わないってことがわかりました。
でも、いつかはこの海の中の風も止んでしまうかもしれませんね。
その時は私は苦しがりながら、身を縮めるのかな、ちょっと怖い未来で、それもあって寂しいのかもしれませんでしたが、本当は電話をかけたくて寂しいのでした。
家や学校や友達の家などへ手当たり次第に電話をかけてみたいのだけれど、私には、それができそうにもないのでした。
なぜでしょうか私の両腕よ電話になれそしてマニキュアをつけた爪がどんどん伸びて電話線になるのよ。
ならない鳴らない。
寂しいってことは、私の手のひらでは十分に届かない距離に色々なものがあるってことで、もっと腕が伸びれば良いだけでしたが、そんな便利な体には、私は、できていませんでした。
そんな中をすべて塗り変えるように、滑り台が、そうじゃありません。
雪です。
違います。
雪の代わりに灰色が降ってきて、だから、そしたら、街になりました、つまり灰色が降り積もるとビルヂングになるのでした、雪が降り積もれば雪だるまになるように、つまり、雪だるまより四角いのです灰色は。
そして、私のお尻からは、尻尾の代わりに芋が根っこが芋が生えてきておりその芋からは灰色の煙のような匂いが拡散しており、それが恥ずかしい気がしました。
腹の減っていた私は芋を食みました尻からはみ出た芋を。
そんな風にして、灰色の街の中を灰色の芋を引きずり歩いていく。
海はどこまでも遠ざかっていく坂道を下るように。
街も流されるように坂道を下っていくのですが。
そんな小さな街が私たちの植物の檻の外側にあります。
小さな太陽を欲しがる人々がビルヂングから顔を覗かせて私を見つめています。どうして。通して。どうしてよ、密集しています。
どうして。通して。通してよ、通された、どうして、そんなに太陽を欲しがるのだろう。
私が有り金全てをはたいて購入したのに、どうして、それなのに、私から取り上げようとしているのだろうか、困ります、呆れます、開いた口から木が生えます、太陽は光り輝くのです。
その光に照らされてみんなの瞳が自転を始めるのです、自転車が自転を始める時点ように公転車が公転を始めます事態が好転します。
みんなの肉体が公転しています。
町中の人々が太陽系に連なり回る回る回る運動をしています。
私は少しだけ怖くなりました。
私たちは惑星です。
でもそれは塩胡椒のような怖さで一口食べると消えてしまいました塩饅頭のようでした。
シュークリームのように溶けていきました。
気がつくと私の目の前には様々な貨幣がうず高く積まれていて、ずうっと、太陽を買い取ろうと様々な人々が押しかけてきて、太陽は私の手元から離れてしまいました。
そして植物たちも私をもう包み込んではくれなくなり、そして、私の背後には私の形には似ていないくせに私の形を模した影が広がってしまっていました。
そこで、目が覚めました。
そこで、目が覚めました。
そう、また、目が覚めたのです。
なんだ夢か夢じゃないのですただ目が覚めたのです。
私はつまらそうに学校にいました。私は夢遊病なのかもしれない。
でも、それは便利ないいことなのでいいのです。
せっかく夢の中で手に入れた太陽をみんなに寄ってたかって奪われてしまったことが、内心とても腹が立っていたようで、ほっぺたが破れそうなほどほっぺたを膨らませていましたそれはとても痛いのですポパイの力こぶのようにステロイドみたいでしたほっぺたが。
ペタッと私の首筋に同級生の一人の手が伸びてきました冷たい手のひら首筋に冷たい手のひらで触ってきたのです。
うきゃ、と私は驚きます。
同級生は言いました。屋上へ行こう、と。
屋上って何。屋上は屋上ですよ。
そうですか。屋上は屋上ですか。
陛下って一見階下って感じだけれど、どちらかというと屋上って感じ、と私は思いながら、先導する先輩というわけでもない同級生の後をただ追いかけるのでした。
屋上には無数の生首が埋まっていて、そうですあの生首です、それは大根畑のようでした、その生首たちはことごとく麻紐で首をくくっていてその麻紐はその先が見えないほど先細りながらはるか上空へ伸びていました。
つまり首吊り死体です。
私は驚いたりしないで、死なないで、しないで、死なななないでよ、と思いました、学校はその麻紐によって吊り上げられクレーンのように吊り上げられ私たちが教室移動をするとゆらゆらと揺れるのでした。
それが、楽しかった。
ぶらんこを漕ぐようで。
でも、それはともかく、首を吊っている人々は、今にも死にそうでした。
でも、死にきれないように途中で空中を睨んでいて、私と同級生は将棋の駒のようにそんな屋上で飯を食います。おいしいです。そういうものでした。
夢から覚めると何かに出会えるので、私は嬉しいのでした。
私は今のとことろ次々と夢から夢から夢へ夢へさめているようでしたが、眠っているつもりなんかコレッポチもなかったのにでした。
見晴るかすと校舎を覗き込むように背の高い山が風景に連なっていました。
つららを逆さにしたかのようにそびえる山々でした。
誰か山々で壮大な将棋をしているかのように山々は時折一手一手交互に動き回っているのでした。
私たちの校舎は審判員のようにそれをみています。
そうだ私はまだ眠っているのだってそれは明らかでした。
私たちのはそのゲームを観戦しているから飯が更に美味しくなるのでした。
私は飯の途中で立ち上がり、様々な生首を釣り上げている麻紐を撫でましたそれはぴぃいんと音色を奏でます。
音楽祭の時はたくさんの生徒が屋上に集い様々手前勝手に麻紐を濡れた手指で擦り上げて首吊り死体が悲鳴を奏でるそれは音楽となるのでした。
夢の中で私になついていた太陽太郎がやはり夢が覚めてからも私が恋しいのか、つまり太陽太郎もついさっきまで眠っており、私が目覚めると同時に目覚めると私の元から遠く離れて遥か天上に引き離されていてそれは失恋のように悲しいのです私はさほど悲しくありませんが太陽太郎が悲しがっているから光の雨が降ります太陽だって泣くのですそしてそれは太陽らしい光の雨水となるのです。
山々がずももももと動いていく様で街が擦り切れていきます。
防波堤を山が突き破って少年少女が怖がって街がやや変形して合体して急いで逃げていくのです。
私と一緒に飯を食う同級生は滞りなく忙しない私を微笑ましげに眺めて卵焼きを私の代わりに飲み込みました卵焼きの代わりに私を飲み込んだわけではありませんそれほどまでに愛し合っているわけではないようですから卵を食べれば食べるほど涙腺や鼻の穴からから小さな卵が溢れ出すという卵アレルギーの持ち主でしたからその同級生の周りにはシジミほどの小さな卵が渦のように漏れていましたそして生まれるのです悪魔が。
卵から悪魔が。私は蕎麦アレルギーなので蕎麦を食べると髪の毛が全て蕎麦になってしまいます。
それはアレルギーを楽しむならば楽しいことでもあってお互いの悩みをヴィジュアルで打ち明けあって私は蕎麦を江戸っ子のように大してめんつゆもつけずに啜り上げるのでしたそしてワサビを煉乳のように飲み込みます。
シンバルに縛り付けられている楽団員たちがそんな私達を羨ましそうに眺めています。そう私とその同級生以外未だ授業の最中で、そしてその授業には音楽体育数学国語などなどが多様に含まれているのでした。六百人くらいの学校でした。それはとても履修科目でした。
私は目をこらすと校舎が透明になるので彼ら真面目な皆勤者たちを教室の中でノートを取る子供達一人一人を文字にして私のノートに押し花のようにその子供達を押しつぶして私は私のノートを作成するのでしたがそう私のノートは鋼鉄製でその狭間に押し込められた子供達はいつも際限なく潰れていくのです私達は子供でした。
私は嬉しくって笑うのでした。
飯が美味しいのでした。
学校とはとてもよくわからない場所でした。
問題はいつも溶けていきました。
そうです訓練がいつまでも施されているだけでしたそしてその溶けていく様を追いかけるために校庭を走らされるのです数学の授業中に。
私は溶けていくのが、得意なのでしたでもそれは必要がないことで私の話に耳を傾ける人が私だけでいいので今日もこうして自習時間です。
飯を食い終わりました。
あたりにはすごい数の卵と蕎麦が散乱していました。
私達二人は飯も食ったことだしと抱きつきあってゴロゴロとじゃれ付き合って、少しだけ時を過ごすと、また、真面目に戻って教室へ舞い戻って授業を受けるのでした。
授業は授業でした。
教師は教師でした。
私達はドミノを積み重ねるように賢くなって、そしてドミノが連続して倒れていくのでしたつまりすぐに阿呆になるのです。
黒板の前には数式が並んでいました。
私は数を数えました。
ただひたすらに偶数と奇数をひと組にして掛け合わせるのでした。
それが幾何学になりました。
とても面白いのでした。
目が覚めると父がいました。
しかし、父の目があるべき場所に千本みみず、そうです、父の顔の真ん中に二つ尻の穴がしわしわの尻の穴が窪んでいるのでした、そして口のある場所に一つの目玉、鼻の穴にはぴーなっつそして花火、つまり、福笑いでした。
私はそんな父を笑ってやると、父は怒ったようにキングコング、殴ったりしました。
私は学校から家へ帰宅していたようでしたが、その間、別に目覚めたわけではなく気がついたらそのようになっていました、そこには祖母が百人ほどいたので、帰省していたのかもしれません、百年分の祖母というならわかるけれど百人分の祖母というのはわからない現象でしたがそれはさておき、祖父が大変です、祖父は百人の祖母に手前勝手に手足を引っ張られ、祖父は一人しかいないのに祖母はその百倍もいるのです、そうです、取り合っているのです一人の男を百人の女女女女・・・女が取り合っており、そして、いま、絹布のよう祖父が引きちぎれました、百の肉片となった祖父汁と祖母がすすり始めますそして、祖母はまたまた孕みました。
それはさておき、父が私を殴っていました。
涙が出ました。
その涙ひとつ一粒が海で、海亀が泳いでおり、その海には瓶詰めの帆船のように小さな精巧に作られた船が浮かんでいましたじゃぶじゃぶと。
そうです。
そして、祖父は悲しそうでした。
祖母の形相はなかなか恐ろしいものでした。
髪の毛がどんどんと抜けていくのです。
祖父の悲鳴がコケコッッッコーここにあり、という風に聞こえました。
祖父はもうほとんど毛が生えておらずちんちくりんとしておりつかみどころがなくぼてっと廊下に広がってるのでした。
私は殴っている父を安全にスポンジ状の緩衝材で包み込み、割れないようにさらに新聞で包みましたそして父はサンドバックの中に詰め込まれたボクサーのようにそのぐるぐるのミイラの中さらに一人殴って遊んでいるのでした父はもう殴るだけのおもちゃです。
私はひと段落がつき、父に殴られた傷を手当てし、百人の祖母に触れないようにそろりそろりと足元を気をつけながら廊下を抜け階段を上がり自室へとたどり着きました。
これでやっと私の個人的時間の始まりです。
ですが何をしましょうか。
何をすればいいのでしょうか。
宿題。
何もする気には起きず窓を全開に開け、そして、私は両目も全開に見開きました。
雲を見つめるためです。
するとバルーンのように、私の目玉がぐんぐんと膨らんでゆき、とてもとても出目金のように両目が瞼がはち切れそうなほど膨らんでゆき、しまいには蒼穹がコンタクトレンズみたいに両目に貼り付き宇宙の端までよく見通せるほど目が大きくなりました。
なにこれ。
成長期ですか。
たくさんの綿雲が、目に入った埃のように飛蚊症のように邪魔でした。
何これと思いはしたものの、目がよく見えるのは良いことだ、と教えられていましたし、私自身そう納得していたので、嬉しくなり、宇宙の隅々まで私は眺め続けました。
さまざまな宇宙人を私はスケッチしましたしそしてウィンクもしました。
本当に生きているのか死んでいるのかわからない彼らだけれども、芸人のように多種多様です。
そしたら驚くことに、私の視線を感じたのでしょう、宇宙の果ての土星人が、さっきまで私に背中を向けてファミコンをしていたのですが、くるっとこちらを振り向き、何見てんだよという顔をしました。
恐ろしい顔ではなかったけれど、私は盗み見をばれてしまったわけで、ぎょっとしました。
ごめんねと目で謝ると、許してくれるように肩をすくめました。
私は目で見て確かめたのでわかるのですが、この宇宙は太陽系しかありません意外と狭くって狭くって私は視野が窮屈に感じられてしまいました。
銀河系などただの落書きでした。
この宇宙を太陽太郎が支えているのかと思うと太陽太郎と知り合いなだけに私自身も誇らしく嬉しくなります。
すごいなあ、って素直に思えて、微笑ましいのですから。
そこで私は目を閉じることにしました。
眼球に張り付いてた蒼穹をベリベリと剥がし、私は飛び出した両目をしゅるしゅると窓枠の内側へ私の顔面のくぼみの中へしゅしゅしゅしゅるしゅると引っ込んでいくともう眠たくなってしまいます。
私はベッドに仰向けに倒れ伏し、靴も脱がずに、ああ、靴を玄関で脱ぐのを忘れてしまっていました、まあいいや、と思いながら眠りに落ちようと思いました。
けれど、あいにくのこと、そこで、再び目が覚めました。
私は一人戦場にいました。
なんだ私は目覚めるばかりで一向に眠れそうにありません、とてもギラギラした意識です。
ところでここは戦場です。
そこでは兵士が戦っていました。
将棋とは違って血が流れる陣取り合戦が繰り広げられているのでした。
血で血を洗うってどういうことですか。
どうしてこんなところにいるの、と今までにないほどその唐突さを感じて途方に暮れて、とりあえず私は塹壕に潜りこみます。
塹壕にはこれでもかというほどみみずがいました。
そしてみみずたちに縛り上げられた捕虜が何人も転がされていました。
血が流れない戦争なんてない。
私は流れ出る血で皿を洗う皿洗い係になんとはなしに任命されました血で血を洗うのは不合理だけれど血で皿を洗うなら合理だからです。
血が小川のように流れていて、塹壕は半分くらい血で浸っていますいったい何人ぶんの血だろうか、千人いや百人、十人、たった一人かもしれないけれど、その血はとても緩やかに川の流れのようにあっちからこっちへと戦場を縦断して流れていく。
そこにはうず高く汚れた皿があって、どうしてだろう誰がこんなに食べたのだろう、私はその皿をじゃぶじゃぶと血の川に浸して、無心に洗っています。
ぬめぬめします。
ぬぬぬぬします。
めめめめしません。
ぬるい血の熱を感じます。
私の肌が血を吸収していく感覚がずぞぞとします。
私は戦場で洗浄しています。
なんの自慢にもなりません。
私の爪が血を吸収しすぎて吸血鬼がマニキュアをつけた時のように真っ赤に染まりました。
夕日に照らして確かめてみれば、その赤はこすったくらいでは落ちそうにないほど染み込んでいます。
指先から皮膚感覚で血の味を感じ取りました。
私指先はは木の根っこになったように赤い血をどくどくと吸収しているのでした。
それは気持ちがよくって、たくさんのあるいは招集の死んでしまった兵士たちには勿体無いというか失礼というか申し訳ないのですが、
ちょっとハイになるというか酔っ払ってしまうというか嬉しくなってしまうのでした。
血に酔ってしまいます。
たくさんの悲惨な死に方をした人たちのことなどちょっとだけ慮外において酔ってしまってああ、皿を取り落とし割ってしまいます。
私は皿洗い職人として失格でした。
でも、そこには私以外に皿を洗える人間はおらず、残りの人々は始終鉄砲を撃っているばかりでだから私は私に、こんなんじゃダメじゃないの、と自戒をして、次回以降皿を滑り落とさぬように注意力高めるべく頬をパンパンと自ら叩くのでした血のべったりついた両手で頬をバンバン叩くのでした。
目に血が混ざり込み黒目と赤目が太極図のように追いかけ始めます目が回ります変なのと思います耳の穴にも血が入ってきて餅が入ってきて、その兵士の断末魔の叫びらしきものが耳の穴を流れる血の音からかすかに聞こえました私は難聴になりました。
私はくしゃくしゃと髪の毛をかき回して髪を真っ赤に染めてしまいます。
なんだか体が火照っていくようです。
私もなんだかんだと戦場の熱にほだされているのかもしれませんでした。
私はこんなんでいいのだろうか、と自ら思うけれど、でも、自動的にどんどん自分が凶暴な性格になっていくのが心の中で手に取るよにわかって、ちょっとビビっている自分が心の片隅で、これでいいのかな、と疑問符を垂れるのでした。
私は猛烈な勢いで皿を洗っていきます。
ただ、洗っても洗っても、皿が現れてきます。
どうしてこんなに皿が戦場にあふれているのだろうか、と疑問なのですが、それもそのはずで、よくみればそれは皿などではなく骨でした。
共通点って白いことくらいですが私にはついさっきまで骨が皿に見えていたようです。
私は兵士の血をつかって兵士の骨から兵士の肉を洗い落そうこそげ落とそうと奮闘しているのでした。
そして私はそれに大成功し、大量の骸骨たちの山を背後に形成しているのでした。
なんて無意味なことをしているのだろう、と思いました。
私はなんだか自分がとても嫌になりうずくまってしまいます。
戦場で石のようにうずくまっていると時の流れはどんどん早くなっていくのです、風化するように人々は死んでゆき、そして平和が訪れて辺りは静かになりました。
寂しさって何世界をよりよくできないことが寂しいそんなわけないでしょうそうかもしれない平和になったところでどうでもいい気がします私は悪い子私は風となって飛び上がろうと思ったのですが私は風ではないのでその場にストンと落ちました。
そろそろまた目が覚めてもいいはずなんだけれどな、と思うのですが、辺りの風景はなかなか変わらないし、なかなか目が覚めません。
今いる世界がリアリティです。
と、タイミングの良いことに、今、目が覚めました。
目がさめると、また、私は異なる場所にふらふらと漂っていました。
そう、宇宙のヘソのような銀河の真上に私はとてもぶくぶくと太って巨大に太って銀河と見比べても遜色がないほど太って漂っているのでしした。
銀河鉄道をメージャーのようにして腹囲を図ると私の知っているどんな単位でも果てしないほどゼロが続いてしまいました。
私があくびをしてしまうと星々を飲み込んでしまうのでした。
けれどそれはそれで構わないだって私にはもう消化器官など無いようだったから。
歯もなかったから。
ただの巨大な袋状の存在それが私でした。
私があくびをして星々を飲み込むと私の中でチカチカと私がプラネタリウムになるだけでした。
私は私の中に飲み込んでしまった星々を一つ一つと数えます。
先ほどまでの戦場が嘘みたいに、心が落ち着いてほっとして星の数は百やそこらじゃ足りなくなってしまい私は過食症のように次々と星をザトウクジラのように飲み込むのでしたそれは炭酸水を飲む時よりも喉越しが気持ちが良いのでした。
うっとりしてしまうのでした。
私は巨大クラゲの唇みたいな唇で私は透明で私の髪の毛は流れ星に尾ひれと受けたように煌めいて私の胸はたぷたぷと星座を連ねて揺れていて、数百の星々を飲み込んだ私はもはや身体中が刺青を入れたかのように星座にまみれていました、というより私の飲み込んだ星の光は光り輝く黒子のようでした黒子を光り輝かせながらとても巨大な存在として銀河に遜色のない巨大な存在として私は宇宙に漂っているのでした。
それはちょっと一息いれるみたいなコーヒータイムに似ていてこれまでの色々な思い出を忘れたわけではないのに、思い出すのが苦にならないのでした。
校舎屋上の首吊り死体のことだとかも穏やかな気持ちでイメージできます。
よかったのでした。
ほんとうによかった。
けれどこの世界からもいずれ目覚めてしまうのだろうな、と思うと、しばらく、少し寂しい気もするのでした。
あはははは、とから笑いでその寂しさと対面します。
笑うとさらに星を飲み込んでしまいます。
私の目の中にもどんどん星が迷い込んできて、私の瞳はとてもキラキラしてしまいます。
私は嬉しいのでした。
宇宙と一体になっているような気がして嬉しいのでした。
けれどそれは時間の問題で、ほら、私の体のいたるところがくびれてきています。
矛盾が発生しています。
私という巨大な存在が、一連のウインナーソーセージのように、ところどころがくびれていき、くびれがさらにひどくなり、しまいには、ぷつんぷつん、と途切れてしまいます。
私が複数にちぎれてしまいます。
私だったものが複数の軍団になります。
星を無数に飲み込んでいた私が複数に分裂します。
それは終わっていくってことでした。
悲しいわけじゃないけれど、そういうものなのだから、仕方がないことであって、私は私の星たちを私の体から逃がすことにしました。
そう、私は私の皮膚を透明に溶かしていくのです。
それは痛いことではなくってただただ消えていくってことで、私の皮膚は消えていきます。
私はそんな私の現状を鑑みながら、多分であるけれども、そろそろ、再び、目覚めるときかな、と思いました。
私は少しずつ私の生き方に順応して私は私の目覚めをコントロール下に収めつつあるようです。
でもそれってなんだか少しつまらない。
私は、目覚めます。
どんどん、目覚めることに自覚的になっていく私でした。
それは成長なのだろうか。
私は、あ、まただ、私は、また、学校にいます。
戦場や、宇宙とは打って変わって、高校の廊下。
そして教室。
そして教師。
そしてびんた。
私は教師をびんたしていました。
なぜ。わからないのですが。
教師は泣き出してしまいました。
教師は三歳児でしたからびんたするなんて酷いことでした。
でも、わたしは我慢ならなくって思わず、手が出てしまったのでした。
泣かないで、今更慰めても遅い遅いよ遅いけれど、泣かないでほしいなあ、とその背広姿の三歳児の物理学講師に対して思うのでした。
泣かないで欲しいのですって。
泣かないでって。
言葉にしよう、と思ったけれど、声に出していう代わりに、黒板に青いチョークで書くのでした。
泣かないでくださいって。
そして付け加えます。
だ・ま・れ、って。
黙っとれ。
私は案外乱暴ものです。
そして物理学講師の口の中へ火のついたタバコを灰皿に押し付けるみたいに青いチョークを押し込むのでした。
物理学講師はそれを飲み込み全身真っ青に変色するのでした。
物理学講師は私に脅迫される形となりひっくひくとしゃくりあげますですがおとなしくなりました。
私はおとなしくなった物理学講師を小脇に抱えて廊下を歩き始めました一人でその場に置いておくのはかわいそうだったからです。
先ほどいた同級生は見当たりません。
優しそうな影が辺りを歩いていますが、知り合いではありません。
学校の廊下の真ん中には噴水があふれています。
何かの傷口みたいに噴水があふれています。
物理学講師は少しずつ粉になってというのもチョークを飲み込ませた結果全身チョークに伝染してしまったのでしょうつまり肉体がチョークと一体化したのです。
彼は私の両手の隙間からさらさらと逃れてゆきますなぜなんだろうと私は思うけれどそれが彼の意志ならば仕方がありません私だって彼をいつまでも引き止めておれると思えるほど自分に自信はありません青い粉となって噴水の中へ物理学講師が溶けていくのです。
気がつけば校舎そのものが少しずつ粉になっていき、その粉は少しずつ風に吹かれて街へと拡散されていきます。
風化した校舎からは少しずつ恐竜の化石のように学生たちが顔を覗かせています私もその一人です。
私もその一人だけれども。
他の生徒たちが手に手を握り合って抱きしめあっているのに比して、私は一人でごろごろと校庭に転がっています。
どうしてだろう。
どうして手足が急に動かなくなってしまったのだろう事情は他の生徒たちも一緒なようで急な姿勢で固まり合ってもつれあって、粉となって吹き飛んでいく校舎をつかもうとするようでしたが、そんなことできるわけなくってところで講師たちは皆校舎とともに粉になってしまったようでそのだだっ広いだけの校舎には私たち学生の凝り固まった肉体しか残されていません。
凝り固まった肉体など捨ててしまいたい、私は口から魂を吐き出そうと必死にもがきますですが。
業者が来ました。
凝り固まった塑像のようになった粗大ゴミみたいになった私たちを一つずつ回収してたぶん埋め立てるのだろう知らないけれどトラックに乗せて一台に二、三十人詰め込んで幸い私は草葉の陰に転がっているからなかなか業者には見つけられないのですが私の目の前で凝り固まった学生が回収されてどーでもいい土地で処理されてしまうようです。
屋上に埋まっていた首吊り死体たちは、校舎も粉になり学生も塑像となってしまった今となっては遥か上空で首吊り死体だけが、冬場の蓑虫のようにぷらぷらと浮かんでいます。
涼しそうに浮かんでいます。太陽に、照らされながら。
見上げると、眼球だけで見上げるとだって首とか全然動かないから、上空にはいたるところに前面に首吊り死体が浮かんでいるのでした。
そうこうするうちに私も業者に捕まってしまった。
私は業者の手の中で温められて、やがて鶏の卵のように孵ります私の肉体がパリパリと割れて、私が新たに新しく白いモワモワとした存在としてそこにいるのです。
業者は私の抜け出した空っぽになった私の肉体だけトラックに詰め込みます。
業者はみんな分かっているようでした。
どうせこれも夢なのに、私は私の肉体から抜け出した私のことを嬉しく思いました。
どうせ夢なのに。
こんな変化なんの足しにもならないのに、でもやっぱり私はなんだか成長してしまった気分で嬉しいのですたかが夢なのに、いつ果てるともしれない夢世界なのにでも、今の私は誰にも捕まえられないくらいには自由だから。
とはいえ、また、目が覚めます。
目が覚め私は、うわあああ、と思います。
追いかける夢から夢へ @DojoKota
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