レベルアップ
「うちは鮮度がいいのばっかだよ!お兄さんどうだい!」
食料系の市場に辿り着いた私は、商品を見て回りました。
大抵は処理済みの物ばかりでしたが、その中で生きた物を販売している露店を発見します。
そこも捌いた肉や魚をメインに売っている様でしたが、その一角、台の上に置いてある籠には生きた生物が詰められていました。
その丸いフォルムは、地球でも見た事のある物です。
まあサイズは段違いですが。
「この丸っこいのをを全て頂けますか?」
籠に入っていたのは丸まった昆虫。
ダンゴムシでした。
但し普通の物とは違い、それは成人男性の拳サイズありますが。
「お、お兄さん通だねぇ!全部なら籠代はオマケしておくよ!」
支払いを済ますと、切符の良いおばさんからダンゴムシの詰まった籠を丸事手渡されます。
まあぎゅうぎゅうに詰まっているので何匹かは死んでいるかもしれませんが、値段がかなり安いので気にはしません。
どうも、人気のない食材の様ですね……
ダンゴムシの不気味な見た目を大きくした様な姿の訳ですから、当たり前と言えば当たり前の話なのかもしれませんが。
「さて……次は宿ですね」
最初、人気のない路地裏でと考えましたが、日本でもあるまいしそんな場所をうろつくのは危険だと気づき、私は急いで宿を探します。
早く殺したくて疼いていましたので。
なので、最初に目についた木建ての宿に適当に決めます。
「あんたそれ……まさか全部一人で食べるのかい」
チェックインの際、籠いっぱいの虫に気付いた受付の中年の女性が尋ねてきます。
質問から彼女がこの虫を食べモノと認識している事が分かりましたが、その表情は歪みとても嫌そうでした。
まあ分かってはいましたが、やはり女性受けは最悪の食べ物の様です。
ダンゴムシは。
まあ男の私から見ても、と手見食欲のそそる姿ではありませんが……
ですがそう言った物は求めていませんので、私的に刃全く問題ありません。
「ええ、大好物ですので」
問いには大好物と返しておきます。
でなければ、籠いっぱいに入れて持ち運んでいるのに違和感が出てしまいますので。
別に彼女に違和感を持たれても大した問題にはならない様な気もしますが、念を込めておいても損はないでしょう。
「出来れば、大きめの皿を用意して貰えると有難いんですが。勿論別料金は支払います」
「まあそれは構わないけどね。部屋は汚さないで送れよ」
「ご安心ください」
「汚したら追加料金を貰うよ」
受付の女性に料金を支払って部屋に案内されます。
部屋は綺麗ではありませんでしたが、掃除は行き届いている感じですね。
まあ安宿としては悪くないのという感じでしょう。
「掃除が大変なんだから、ほんとに汚さないでよ」
女性に皿を渡され、最後に念押しまでされてしまいます。
余程ダンゴムシの体液で汚されるのが嫌なのでしょうね。
「大丈夫です」
私は笑顔でそう答え、蝶番付きのドアを閉めて籠から一匹のダンゴムシを取り出しました。
感触はかなり硬く、虫は丸まって防御姿勢をとってきます。
「かなり硬いですね。甲殻の部分に刃を通すのは一苦労しそうです。とは言え……」
堅いのなら節の部分を狙えばいいだけの事。
私はインベントリから包丁を取り出し、ダンゴムシを皿の上に置いてその節に切っ先を当て、そして勢いよく――
「ふっ」
――体重を乗せつつ力を込めました。
ぶしゅっという鈍い音が響き、少しの体液が包丁の先端が刺さった部分から噴き出します。
「もう一度」
ダンゴムシは一瞬体を震わせましたが、大きな動きはありません。
なので私は包丁を抜き、別の場所に再び包丁を突き込みます。
「おぉ……」
二発目が致命傷になったのでしょう。
丸く閉じたその体がゆっくりと開き、ダンゴムシは無数の足をすこしわちゃわちゃさせた後動かなくなってしまいます。
――命を刈り取った感覚。
暴力団を相手にした時は慌ただしかったので堪能できませんでしたが、私の手で命が散る瞬間は本当にえも言われぬばかりの快感です。
まあ勿論、虫から得られる快感は人間のそれには遠く及びませんが。
「おや、レベルが上がりましたね」
この世界において、ステータスの確認にはそれ専用の鑑定魔法が必要となります。
当然私にはそんな物はないので、確認する事は出来ません。
ですがレベルが上がったのはハッキリと分かりました。
「貴方の命は無駄ではありませんでしたよ」
そう感謝の言葉を告げ、私はインベントリに虫の死骸をしまいました。
こういう時は感謝の表現として、せめて相手を食べるのが正しい事の様に感じますが、寄生虫や病原菌の事を考えるととても生で口にする気にはなれません。
なので食べるのは後回しです。
調理できる環境にありませんので。
幸い、インベントリ内は時間が止まっている様なので腐る心配はないでしょう。
「さて……レベルアップはスキルですか」
レベルアップには三パターンあります。
全て能力が少しづつ上がるパターン。
特定の能力がそこそこ上がるパターン。
そして、能力は上がりませんがスキルを習得するパターンです。
基本的に全ての能力が上がるのと、特定の能力が上がるのがレベルアップの大半を占め、スキルを習得するのは稀で当りだと神からの情報には出ていました。
なので今回は当たりという事です。
「
範囲スキルの様で、かかった人物の心根や行動の善悪を測るという効果の様です。
一見、殺しに向くスキルではありませんが、これは私には重要な意味を持つスキルと言えるでしょう。
「自分の望む物。もしくは資質にあった物が付きやすいらしいですが、本当の様ですね」
転生したとはいえ、日本人だった過去が消えてなくなる訳ではありません。
殺しの衝動が引き継がれているのと同様に、身に沁みついている良心もまた私の中に確かに残っていました。
なので地球で悪人をターゲットに選んだように、この世界でも同じ基準で殺す相手を決めるつもりです。
「罪のない物を殺す、余計な罪悪感が出て純粋に殺しを楽しめないですから。その心配がなくなるのは大きい」
なので、この善悪を測るというスキルは正に私に持って来いです。
ああ、そうそう。
説明しておくと、このスキルの善悪はこの世界の普遍的な価値観から導き出される物などではない様で――感覚でスキルの概要が分かる――どうも私の善悪基準で選定する用ですね。
ますます都合の良いスキルです。
「どれ――ジャッジメント」
試しにスキルを発動させてみました。
その効果は最大で自分の周囲100メートル程まで広げる事が出来、対象は経験値の入る生物全般となります。
ですが、今回は範囲1メートルで発動させました。
かけられた側がスキルに気付く仕様の様でしたので、下手に使うと余計な揉め事の種になってしまいます――スキルのレベルが上がれば。、気づかれずに済ませる事も可能になる。
ですので余計な物は巻き込まない様、最小範囲で発動させたのです。
その対象は言うまでも無く、籠の中にダンゴムシ達です。
「スキルを受けると天秤が頭上に現れる訳ですね」
ダンゴムシ達の頭上に、無数の天秤が浮かび上がる。
それらは全て善側に傾いていました。
まあ思考があるかも怪しく、単純に生きているだけの生物でしょうから、当然の結果と言えるでしょう。
ただ単に生きているだけで悪になる様なら、生物全て悪にカテゴライズされてしまいますからね。
私の悪の基準はそこまで厳しくはありません。
「さて、スキルの試し撃ちも思ったので続きを楽しむとしましょうか」
再びダンゴムシを皿の上に置き、私は一匹一匹感謝の念を込めてその快楽を楽しみます。
もちろん殺したら全てインベントリに放り込み、後々食べさせていただきます。
美味しいと良いのですがね。
まあ不味くても、頑張って全て食べはしますが。
「22匹でレベルは8ですか」
一匹目で一レベルが上がりましたが、やはりゲームの様にレベルが上がる度に必要となる経験値は大きくなっていく様です。
因みに、殺しによって得られた資金は購入資金よりずっと多いので、ダンゴムシを殺し続けるだけで永久機関状態になります。
「ま、ダンゴムシだけで我慢する気はないですが……とにかく、今は上げられるだけレベルを上げるとしましょうか」
私は一旦宿を出て、再び食糧市場へと向かいます。
殺すための生物を手に入れる為に。
そう言えば……植物はどうなんでしょうね?
まあ鉢植えでも売っていたら、それも買ってみるとしましょうか。
「まだ日も高いですし、」
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