転生
「見事な死にざまだったぞ」
身長3メートルはありそうながっしりした身体つきの偉丈夫が、私を見下ろしそう言います。
体には白い布を巻いた様な服を身に着けており、その背には白い羽が生えていました。
「はぁ……」
自己紹介で、彼は自らを神と名乗のりました。
確かに見た目はそれっぽいですし、今居る場所も雲の上っぽい場所なので、神かどうかは置いておいても、只の人間ではない事は確かだろうと思われるます。
「正義と信念の為に命をかけて悪を討つ。それは簡単にできる事ではない」
快楽を満たすための大義名分として悪人をターゲットにしただけなのですが……
神にはそう見えていたのでしょうか?
いや、本当に神ならそんな事はお見通しの筈。
ならやはりこの男は神ではないという事でしょう。
もしくは、分かっていて茶番をうっているか、ですが……
判断材料が少なすぎて答えは出せんね。
今はとにかく、話を合わせておくとしましょうか。
「その生き様に敬意を表し、貴様に新たな生を用意してやろう」
「それは……転生という奴でしょうか?」
「んむ、そうだ。但し、転生先は地球ではなく異世界だがな」
「異世界……」
異世界転生。
漫画などによくある展開である。
「お前さんはその世界で好きに生きるがいい」
「好きに生きて良いというのは……」
「言葉通りだ。好きな様に生きていい。正義の執行や、それ以外も思うままに。私はそれらを一切制限しない。ああ、もちろんチートも用意してある。お前さん向けの物をな」
神が口元を歪め、ニヤリと笑う。
これは神から与えられた殺人免罪符と考えていいのでしょうか?
まあそう決めつけるのは早計でしょうが。
やはり気になるのはチートの内容ですね。
私向けらしいですが、それは一体どういった物なのか。
「さて……私は忙しい。余り時間も無いので、早速転生を行わせて貰う。ああ、心配しなくてもいい。必要な情報は直接脳内に送り込んでおいてやるから」
自らを神と名乗った男はそう一方的に告げると、その手を振る。
すると、すぅーっと私の意識が遠のいて行った。
神かどうかは分からないが、やはりとんでもない存在だな。
そんな事を薄っすらと考えながら闇に落ちていく。
そして目覚めた時、私は――
「ここが異世界ですか……」
――見たことも無い場所に立っていた。
「家屋は木造が大半で、モルタルで固められた様な物もチラホラありますね。そして往来の道は踏み固めた土、と」
まばらに見かけられる住人達も、全員質素な格好。
パッと見た感じ、文明の発展度は地球より低い様に思えますね。
まあここが僻地で、都会や別の国に行けば地球の先進国のと同じような風景が見られる可能性も考えられますが。
「そういえば……必要な知識を脳内に送ってくれたと言っていましたね」
どうやって引き出すのか……そう考えた時――
「ん?」
――目の前に半透明のパネルが浮かび上がった。
そこにはこの世界の概要。
そして今自分がどう言う状況かが表示されていた――目を通すと自動でページが移動する。
「ふむ……魔物を狩ると経験値を得、レベルの上がる世界ですか」
文明レベルは最初の印象通りあまり高くないらしい。
そして魔法もあり、まるでゲームのような世界だ。
「私のチートは、生命体を殺せば種類関係なく経験値と金銭が入る……と。まあ微生物の様な見えないサイズの生命は駄目の様ですが」
この世界の住人は魔物を狩って経験値を得る事が出来るが、それ以外を殺しても経験値は入って来ない。
つまり、私だけが何も殺しても経験値が入るという事ですね。
それ以外にも言語系。
そしてインベントリという、物を入れられる謎空間が与えられている様です。
「まあ確かに、私向きではありますね」
あの神を名乗った男はよく理解している様だ。
人とダイレクトに表示しないのは、神としてそれを明確に認めたり勧められないのか……
「もしくは、本当に気付いていないだけか」
特異で強大な力を持っている人物ではあったが、此方に対してさして興味が無ければ気づいていない可能性は十分考えられる事である。
「まあ何にせよ、まずはレベルを上げないといけませんね」
この世界でする事など決まっている。
当然殺しだ。
だが、今の私が下手に手を出せば返り討ちに会う可能性が高い。
何故ならこの世界にはレベルがあるから。
なので下手に手を出すと、返り討ちにあってしまう事は想像に難くなかった。
まあ大半の一般人は魔物など狩らないらしいので、心配しすぎな気もしますが……石橋は叩いて渡るのが定石ですからね。
心の安定のためにも、レベルを最低限上げておきたいというのが本音です。
もちろん、魔物を狩るなんてリスキーな真似はしませんよ。
何を殺しても経験値が入るチートを生かし、虫や小動物を殺して経験値を得ようと思っています。
「さて……では生きた動物や昆虫を買いに行くとしましょうか」
いい大人が、街中でその手の生物を捕まえて回るのは衆目を集めてしまいます。
そして街の外に出ると、魔物と遭遇してしまう可能性で出て来る――街中はどうやら結界が張って合り、中に入って来れない様になっているらしい。
なら買うしかないですよね?
因みに、インベントリとやらの中は現在私が最後に手にしていた包丁とライター。
それと、襲撃をかける際に動きやすいよう着ていたスポーツウェアとシューズが入っています――今身に着けているのは、この世界の住人が来ているレベルの粗末な服。
財布はないのでお金はありません。
まああったとしても、この世界で日本銀行が発行しているお金が使えるとは思いませんが。
ならば買えないのではないか?
その点は問題ないかと。
古着屋にスポーツウェアを売るつもりですので。
インベントリ内の服には売却可のマークとその額も付いているので、たぶん買い取って貰えるでしょう。
そうでないなら、売却額など態々表示されないでしょうし。
「ほう、こりゃまた上質な布を使っとるね」
街中を歩き回って古着屋を見つけ、そこで服を売りたいと声をかける。
その際、反応が見たく態と目の前でインベントリから取り出して見せたのですが、その点に対する反応はありませんでした。
スキルのある世界なので、数あるスキルの一つとしてとらえてくれた様ですね。
ここで余りにも驚かれる様なら今後伏せておく事も考えましたが、その必要は無さそうです。
「ありがとうございます」
服はインベントリ内の表示通りの価格で買い取って貰えました。
この世界だと、一般市民の数か月の稼ぎに匹敵する額です。
これなら生物の買取も、暫くの生活にも困る事はないでしょう。
――異世界のお金を手に入れた私は、食品市場へと向かう。
え?
昆虫ショップやペットショップに行かないのか?
説明を見た感じ、この世界は地球の先進国程余裕がある様には思えませんでした。
なので、その手の売買を生業とする店があるとは少し考えづらいです。
まああっても、大都市ぐらいでしょう――ここはそこまで大きくない街。
なので、東南アジアの様に生きた昆虫や小動物が食材として売られているのではと考え、食品を取り扱う場所へと向かいます。
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