僕は勇者の殺し方を知っている。⑧
ー魔王は強欲であった。
彼は調律者の力の一部を勇者ラングルドの仲介によって手に入れるためでは足らなかった。
魔王は…調律者の権能の全てを取り戻したかった。
何故なら、その力は全て元は魔王の力であるからだ。
…そう。
魔王は、元はこの世界の最高神であり、この世界を思うがままに操れる権能を持っていた。
その最高神の名前はワールド。
ワールドはかつて、自分の世界を好きなように操っていた。
しかし……その権能は人間とそれに加担する人間側の神々の反乱によって、奪われた。
そして、その奪われた権能は調律者の権能として…調律者と名乗る人間の代表者によって受け継がれた。
つまり…
最高神ワールドではなく、人間の支配する時代が訪れたのだ。
そして、それと対照的に、ワールドは天界から追放された。
そのことをワールドは未だに恨んでいる。
そして…ワールドは再び、最高神としてこの世界に君臨するために、調律者を消そうと画策した。
しかし、調律者を殺しても、調律者の力は消えないことに気づき、それから今の調律者のいる世界を消すための計画を作り上げた。
そして…そのためにワールドは魔王の地位を乗っ取り、魔族の王としてこの世界に君臨した。
魔王はその立場を使って、勇者ラングルドに接近し、互いに利害関係を一致させることに成功する。
さらに…魔王は予想外の勇者の裏切りによって殺されたが、逆にそれを利用して、魔王の調律者の権能をマーシャに一旦返上した。
そして…勇者はその自らが与えたマーシャの権能が暴走することによって、自らの身体を終末獣に変え、世界を滅亡させ、もう二度と人が生まれないようにすることによって、調律者が二度とこの世に生まれないようにして、調律者から調律者の権能を奪った。
また…勇者は自らが本物の楽園の神から奪った魂の権能を用いて、調律者のいない世界を創り出した。
しかし…その後、元最高神である魔王が新世界に転生したことによって、世界を支配できる権能は魔王の手に移った。
そして、最終的に魔王は再び最高神ワールドとして世界に君臨し、さらに勇者ラングルドさえもその圧倒的な力で消し去ることに成功した。
最後に新世界に転移させるときに、何故かラングルド以外にももう一人の記憶を消せなかった男であるエミールを消して、全ては上手くいく……
はずだった。
ーエミールの剣が魔王の魔剣を弾くまでは。
魔王は叫ぶ。
『エミール…!!!まだ俺の邪魔をするか!!!』
『ああ。僕は魔王…お前を殺せる』
『無理だな。俺は殺せん…!今の俺は不老不死だ!!』
『ああ、そうだろうな…だから…こうすることにした』
そう言って、エミールは自らの胸に剣を刺した。
『……は?お前。何をやって………』
『ゴフッ。ああ。お前は僕を消しにきただけで、殺しには来ていないんだよな…?つまり…お前は僕をその魔剣で操り人形にしたいだけで、殺したいわけではない』
『………何が言いたい…?』
『村の家の伝承で聞いたことがある。勇者が死んだ時…つまりこの世界に誰一人勇者がいない時……』
『魔王は死ぬ……ってな。まあ…どうせこれが適用されるのは調律者の力を持ってるお前だけだろうけどな。本当に勇者がいなくなって死ぬのは……世界を支配できる権能を持っている最高神や調律者だけだろうしな』
『不老不死は?不老不死はどうした…!?貴様が勇者である以上…!俺の命が尽きぬ限り!不老不死なはずだ!!』
『ああ、それか。それはな……』
(………)
『エミール。後は頼んだよ』
(…………)
『前の調律者のマーシャがルールを変えてくれたおかげで…そんな勇者が不老不死なんてルールは無くなった』
『貴様ら!!よくも!!よくも!!!やりやがったなあ!!!』
『ああ、そうだ。僕がお前の力に抗った。僕は魔王…お前の殺し方を知っている。それは……勇者である僕自身を殺すことだ』
魔王は怒鳴り声を上げながら、僕に魔剣を刺そうとする。
『くそがぁ…!!!貴様なんぞに!!!!』
『残念だったな。魔王…僕の勝ちだ』
僕がそう言うと…その次の瞬間……
僕の心臓が止まり……
『が…!!がは!!キサマ………!!なんぞにい…!!!』
魔王の命の炎も遂には消えた。
ーそう。これが僕の狙いだった。
これは、僕が勇者の人生の顛末を見てからずっと気づいていたことなんだが…
僕が知ってる勇者の殺し方は…結局。
自分を殺すことだったんだ。
…そして。
マーシャ。君はもう僕のことを忘れているかもしれない。
僕はそのことがすごく悲しい。
だけど…良いんだ。
君が幸せなら。
だから……
どうか。
幸せに……な…?
ーこうして、この僕エミール・ハーヴェストの一生は終わった。
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