消えた二人
「おはよ〜」
「おー、おっす」
元気よく挨拶が飛び交う高校の校舎で、凪は一人いつも通り登校する。あれから家へ帰って親に色々と説明したが、何一つ信じてもらえなかった。なぜなら、ユキオ達が先に手を回し、異なる口実を作っていたからだ。どうやら友達の家に泊まっていたパターンの口実を刷り込ませており、孫が大変な目にあったというのに、祖母は顔色ひとつ変えずに「おかえり、凪ちゃん」と言った。
結局凪は一睡もできず、夜が明けてしまった。
黙って部活を休むのも初めてのことだ。今日なんと言おうと考えていた。
他の生徒と同じように下駄箱で上靴に履き替える。
「――ん?」
上靴の上に一枚の紙が入っていた。手に取り「ごめん」と書かれた見慣れない文字に首をひねる。
「人違いか……?」
凪はその紙を特に気にせず、クラスへ向かったのだが…――。
「えー、突然だが、坂と瀬川が転校することになった。何か言い残したことがあるやつは先生までなー」
てん、こう………?
いやいやいや、聞いてないって。俺、昨日稀月と約束したばかりなのに……――。
ホームルームが終わり次第、二人の話題でざわつくクラスメイトを放って、凪は担任を追いかけた。
「先生! 二人が、二人が転校ってどういうことですか? 俺、だって昨日…―――」
「ああ、そうだったな。お前は昨日休みだったもんな。クラスメイトには昨日軽く説明しておいたんだ。お前が驚くのも無理はない」
そんな………。
「それより、無断で部活休んだったってな? 大丈夫か? 大会も近いんだから、困ったことがあったらいつでも相談しろよ」
「……ありがとう、ございます」
何ひとつ納得できないが、去っていく担任の後ろ姿を引き止めることはできなかった。凪は一人、廊下で立ち止まった。
――先生は昨日クラスメイトに説明したと言っていた。ということは、昨日の学校がある時間帯の時点で二人はここから去ることを決めていたということか?……いや、二人が決めたわけじゃないかもしれない。俺に黙って行くわけが……。
凪はふと昨日の綴の言葉を思い出した。友達ではないと言われたあの言葉が……。
綴は眠ってしまったし、俺は結局和解できなかった。稀月が綴を説得できずに、街を離れてしまった可能性もなくはない。
気がつけば凪は走り出していた。
続々と廊下に出てくる同級生の間をすり抜けるようにして走り、教室へ戻って荷物を手に取る。あいつらが街を離れてしまう前に、追い付かなければならないと思った。
「おい、凪!」
カバンを持った手首を掴まれ、凪はふりかえった。
クラスメイトであり同じ部活の佐々木羽糸だった。羽糸は心配そうな顔をして凪を引き留めた。羽糸は髪を茶髪に染めているせいか、凪よりもやんちゃそうに見えるが、サッカー部の支えにもなっている大切な仲間だ。
「お前カバン持ってどこ行くつもりだよ。まだ学校は始まったばかりだぜ?」
「いや、ちょっと俺……行くところがあって」
「行くところってなぁ。お前昨日も学校来なかったじゃん。どうしたんだよ」
「いや、だから…――」
こうしている間に遠くへ行ってしまうかもしれない……。
凪は羽糸の手を振り解いた。
「ごめんっ。まじで急いでるから。じゃあな!」
「凪っ!」
自分を呼び止める羽糸を全力で無視し、凪は校舎を飛び出した。ポケットの中で携帯がずっと振動しているが、やがて音は止まった。
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