命の危機の始まり2
その時だった。
複数の足音が聞こえ、三人は思わずしゃがみこみ、携帯のライトを消した。息を殺し、足音が去るのを待つ。三人の体に、異常なほどの汗が流れた。鼓動がどくどくと高鳴り、外に聞こえないか不安になった。ガチャリと部屋のドアが開く。次第に複数の足音が近づいてきた。
「なああそこに開いてる窓があるだろう?」
凪は声を顰めて言った。そして視線で開いている窓を見る。こうしている間にも足音は大きくなっていく。
「あるけど、まさか…――」
「やらずに後悔はしたくないんだ!」
次の瞬間、凪は影から身を出し、窓へ向かって走り出した。
「全く!」と言って稀月も走り出す。凪と稀月の姿が見えたことにより、部屋へ入ってきた奴らが一斉に彼らの方を向いた。その手には拳銃が握られており、カチャリと音を立てて構える。二人に遅れを取れないよう、綴も影から飛び出した。
凪は勢いよく床を蹴り、受け身の姿勢を取って窓から飛び降りた。軽く風を切る音。遅れて全身に痛みが走った。しかし思ったよりも痛みはなかった。窓から飛び降りたそこは、植物の花壇だったのだ。柔らかい土が緩衝材となり、すぐに立ち上がることができた。
「うわぁ、まじ最悪。服汚れたんだけど」
後から落ちてきた綴もすぐに立ち上がり、制服についた泥を叩いた。自慢の長い黒髪にもところどころ土がついている。「どんまいどんまい」と稀月は微笑みながら、綴の髪についた土を払ってあげた。凪が二人の様子をジッと見ていると、綴は凪の視線に気がついて、目を顰めた。
「信じらんない。稀月はこんなに紳士なのに、あんたは何もしれくれないわけ? ねぎらいの言葉もないわけ?」
「はぁ?」
「無謀なことをしたくせに、頑張った私には何にも言ってくれないのね」
「今それどころじゃないだろ。…それに、俺が飛び降りなければ今頃俺たち捕まってたんだぞ? しかも訳もわからず」
「そうだな。例を言うよ、凪」
「おうよ。――って、お前が言うとこいつが一生礼を言わねえだろ!」
「まあまあ」
凪は、歯痒い思いをしながらも、大きくため息をついて口を閉じた。
――全く、いつもこうなんだよな……――
凪が二人と出会った時には既に、稀月と綴はそれ以上の付き合いだった。児童養護施設で育った二人は、周りが入り込む隙間もないほど仲が良かったそうだ。凪は、小学生の頃、たまたま同じクラスになり仲良くなった。
「こっちだ! こっちに逃げたぞ!」
平和な時間も束の間。追っ手たちの声が暗闇に響き、三人の間に緊張が走る。
「で、飛び降りたはいいけど、この後どうするのよ」
「……とにかく、この敷地内から出よう。町の方へ行けばどうにかなるかもしれない」
追っ手たちに追いつかれないよう走るのは容易だった。見たところ、大人の男たちだ。まだ高校生の自分達には体力に自信があり、俊足なのにも自信があった。
三人は、走りながら入口を目指した。入り口へ辿り着くと、幸いにも男たちの姿は見えなかった。黒いセダンの車は空っぽだ。あれに人が乗っていたのなら、そんなに人はいないはずだ。今のうちにフェンスを超え、敷地を出ようと安堵した、その時だった。大きな銃声が轟いた。凪はビクリと肩を震わせ、思わず足を止める。聞いたことのない重音。
そして、ドサリと音を立てて稀月が地面に倒れ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます