夜明け前のボクら
@nokal
プロローグ
命の危機の始まり
帰り道に怪しげな車がいたことを、口にするまでもなく、何故か凪たちは走り出していた。「たち」というのは、佐藤凪、坂稀月、瀬川綴のことを指す。彼らは小さい頃から行動を共にする幼馴染だった。この日も、高校の授業が終わり下校の最中だったのだ。
走り出した凪は二人を先に走らせ、自分はちらりと後ろを向く。
――黒いセダンの車………―――
追ってくる黒いセダンの車は見覚えのない番号のものだった。小さな町で暮らしている凪にとって、町を走っている車を全て覚えることなど容易であったため、最初からこの車には違和感を感じていたのだ。
「ねえ、あの車なんなの? なんであたしたちを追ってくるわけ?」
走りながら綴は二人に聞く。
「校門出た時からあたしたちのこと尾行してたよね? 意味わかんないんだけど」
「わからない。とりあえず今は身を隠すところを探そう」
そう稀月が答えると、綴は軽く舌打ちをして、走ることに集中した。
車はじわじわと距離を積めてくる。小さな町だというのに、三人を追ってくる車のおかしな光景を見る通行人がいないのは、時間帯が問題だった。
三人の住む町―コレガレ町――は、夕方になると皆家に籠る謎の修正がある。具体的な時間帯は、十六時から十七時の間だ。高校生や中学生の下校時間でもある。年々少子高齢化しているコレガレ町では、子供を大切にする習性がいつからかつき、子供が家へ帰った時に誰かがいるようにしようという思いから、始まったとか始まっていないとか。諸説あるが、三人の下校時間をわざわざ狙ってくるということは、この町のことを熟知しているのかもしれないと、凪は思った。
三人は滴る汗と、疲労してきた体に限界を感じ、近くにあった廃工場へ逃げ込むことにした。幸い工場の敷地は広く、入り口には大きなフェンスがある。三人は持ち前の運動神経を生かし、フェンスを乗り越え敷地に足を踏み入れた。振り返ると車は立ち止まり、動きが止まった。
「今のうちに隠れるところを見つけよう」と稀月を先頭に三人は奥へ進んだ。
「で、一体なんなの? あいつら」
学校を出た直後から苛立ちを隠せなかった綴は、声を震わせて言った。あまりにも突然大きな声を出すので、凪は思わず綴の口を塞いだ。モゴモゴと暴れる綴を横に、稀月は周りを確認する。
「大丈夫だよ。あいつらの姿は見えない」
三人は工場の敷地のだいぶ奥まで入ってきた。数分の時間稼ぎには十分だ。
綴の問いに、凪は首を横に振り、複雑そうな表情を浮かべる。
「みたいことのない車の番号だった。きっとこの町のやつらじゃない」
「だからさ、何で外から来た奴らがあたしたちのことを追ってくるのよ。どうみても正常な奴らじゃないでしょ」
「可能性として考えられるのは、人身売買か人攫い。他の国の奴らが密輸のために来たか、それとも金目的の誘拐か」
「何それ。一番最後が一番あり得ない」
「綴……」
綴はキッと鋭い大きな目で、稀月と凪をみた。
「だって、凪は両親が小さい頃に死んでるし、稀月も親のいない養子組。私だって稀月と同じで養子組。そんな私たちにお金の価値なんてあると思う?」
三人の間に沈黙が走った。誰も、綴の言う言葉に言い返せなかった。
――では、となると彼らは何の目的があって、俺たちを追ってきたのだろうか……――
そう考えたところで、答えは簡単には見つからない。三人は諦めて、今いる倉庫を物色することにした。
町の外れには、町の雰囲気にそぐわない廃工場がある。住民間では有名な話だった。子供の頃には幽霊工場と騒がれ、心霊スポットとして多くの学生が肝試しに行った。しかし、そんなおふざけもいつしか消え、今となっては誰も訪れない場所となっている。三人もここへ来るのは、小学校以来だった。黒い車に追われ、あまりにも突然のことだったので、こんなところへと逃げ込んでしまったが、シンプルに追われた時の対処の仕方の選択肢としては、大外れだろう。
なるべく奴らに悟られないよう携帯のライトを付けたり消したりしながら、三人は静かに動く。
「なあ」と不意に凪は言った。「これなんだよ」
そういって凪が照らした壁には、何かの文字が書かれていた。大きく書かれた文字に、三人は首を捻る。
「これ何の文字?」
「無限……にも見えるけど」
「ただの何でもない文字にも見える……」
無限という文字の下に斜めの棒を足したような文字は、みたことがないものだった。
「こんなところに書かれてるってことは、この場所になんか意味でもあるのかな……?」
「僕はこんなもの見つけたけど」
そう言って稀月が二人に見せたのは、からになった注射器だ。埃をかぶっており、長い間放置されていたことが窺える。注射器本体も欠けている部分があり、壊れた後のようだった。
「……一体、ここは……――?」
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