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「ボクは何とか、猫を元気にしよう…と、せっせと猫に似た石を、

 河原に探しに行って、それに絵を書くと、お供えをしていた。

 けれど一向に、よくなる兆しがしない。

 なのでドンドン石を拾ってきては、絵を書いて、お供えを…

 それを毎日のように繰り返し、お百度参りをして供えたところ、

 猫はある日、姿を消した。

 猫は死に際に、姿を消すというからね。

 きっと、どこかへ行ったんだ。

 それきり帰ってこなかった。

 そこで困ったのは、大量に作った石の行き先だ。

 気が付いたら、たくさん作った石のオブジェが、家の中を埋め尽くしていた。

 これは、困った!

 これを、どこに預けよう、と思って、探していたら…

 ふと目についたのが、この…」

と、新聞広告を、ポケットから引っ張り出しました。

「チラシだ」

それは、何度も読みつくされたらしく、しわくちゃで、ヨレヨレで、しかも

縁が敗れている切り抜きでした。


 善行さんはじぃっと若者の目を見つめて、聞き入っていました。

「気の毒なんだけど」

彼は立ち上がると、若者の肩をポンと叩きます。

「ここはお寺さんじゃないから、例え預かっても、何にもせずに、

 放ったらかしになるよ。

 それに、ギャラリーでもないから、展示も出来ないんだ。

 それは、ココに書いてあるよね?」

そう言って、チラシを指差します。

「かさばるもの、大きいものも、ダメなんだ。

 それに、こんなにたくさんあるのも…ダメだ」

可哀想だけどね。

そう言うと、善行さんは背を向けました。


「ミツキちゃん、待たせたねぇ」

 打って変わって、優しい声を出して、庭にいるミツキちゃんに向かって、

声をかけます。

「お腹すいただろ?すぐ、支度するからねぇ」

若者はその声を聞きながら、そのまましゃがみ込んでしまいました。


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