10
ようやく部屋に戻ると、若者が待ちかまえていました。
ウロウロと部屋の中を歩き回り、家の中をじっくりと観察しているのが、
目に入りました。
落ち着かない様子で、古い造作の和箪笥を眺めたり、欄間の上の額縁を
眺めていたり。
始終物珍しそうに、目をキョロキョロとさせていました。
「大変お待たせして、すみません…」
ふすまを開けて声をかけると、パタと立ち止まります。
折を見て室内に入ると、若者はスタスタと窓辺からとって返し、座卓に
近付きます。
「さっきの…お孫さんではないんですか?」
探るような目つきで聞きます。
「いや、あの子とはつい最近、知り合ったばかりなんだ」
善行さんがそう返すと、
「そうなんですかぁ。とても仲がよさそうなので、てっきりそうなのかと、
勘違いをしましたよぉ」
さして気にすることなく、ひょうひょうとした口ぶりです。
例のミツキちゃんとのやり取りを、見ていたせいなのか、
だがそんなに、デレデレしていたのでしょうか…
善行さんは急に恥ずかしくなって、鏡に映る自分の顔を見て、キュッと
表情を引き締めます。
「で、預かってもらえないのですか?」
待ちくたびれたせいもあり、ちょっとせっかちに、若者は本題を切り出します。
だけども、そうおいそれと断るのもどうか…と、迷っています。
「やっぱり、ダメですか?」
そう声に出した時には、すっかりあきらめモードで、ガッカリとした顔を隠そうとはしません。
まいったなぁ~と思っているところで、善行さんの目に留まったのは、やはりここの新聞広告でした。
『あなたの思い出、預かります』
若者の視線を感じながら、さてどう切り出そうか、と迷います。
「それにしても、それって、おまじないか何かなんですか?」
口をついて出たのは、先ほどから感じていた素朴な疑問でした。
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