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 ようやく部屋に戻ると、若者が待ちかまえていました。

ウロウロと部屋の中を歩き回り、家の中をじっくりと観察しているのが、

目に入りました。

落ち着かない様子で、古い造作の和箪笥を眺めたり、欄間の上の額縁を

眺めていたり。

始終物珍しそうに、目をキョロキョロとさせていました。


「大変お待たせして、すみません…」

ふすまを開けて声をかけると、パタと立ち止まります。

折を見て室内に入ると、若者はスタスタと窓辺からとって返し、座卓に

近付きます。

「さっきの…お孫さんではないんですか?」

探るような目つきで聞きます。

「いや、あの子とはつい最近、知り合ったばかりなんだ」

善行さんがそう返すと、

「そうなんですかぁ。とても仲がよさそうなので、てっきりそうなのかと、

 勘違いをしましたよぉ」

さして気にすることなく、ひょうひょうとした口ぶりです。

 例のミツキちゃんとのやり取りを、見ていたせいなのか、

だがそんなに、デレデレしていたのでしょうか…

善行さんは急に恥ずかしくなって、鏡に映る自分の顔を見て、キュッと

表情を引き締めます。


「で、預かってもらえないのですか?」

 待ちくたびれたせいもあり、ちょっとせっかちに、若者は本題を切り出します。

だけども、そうおいそれと断るのもどうか…と、迷っています。

「やっぱり、ダメですか?」

そう声に出した時には、すっかりあきらめモードで、ガッカリとした顔を隠そうとはしません。

 まいったなぁ~と思っているところで、善行さんの目に留まったのは、やはりここの新聞広告でした。

『あなたの思い出、預かります』

若者の視線を感じながら、さてどう切り出そうか、と迷います。

「それにしても、それって、おまじないか何かなんですか?」

口をついて出たのは、先ほどから感じていた素朴な疑問でした。

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