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 呆れた顔をして、若者は善行さんたちを見ています。

いいんだ…と、善行さんは思うのです。

これからは、自由にふるまうんだ…と、心の中でそうつぶやくのです。

誰に気を遣うんだ、自分は自分なんだ、と思い、

「さぁて、もう、来てるかなぁ?」

そうつぶやきます。

わぁ~と声を上げて、ミツキちゃんは庭の方へと走り出します。

すると植え込みの向こうから、のそっとボスの姿が現れました。

「来たな…」とつぶやくと、ボスの黒い体の影から、小さな白い猫も

姿を見せました。


「いた!猫ちゃん、ちゃんといたんだねぇ」

 ミツキちゃんは嬉しそうに、裸足のまま、庭に出ようとするので、

「これこれ!」と善行さんはあわてて駆け寄ります。

「汚れるよ!汚れたら、お母さんに叱られるよ!」

善行さんがそう言うと、ミツキちゃんはあわてて、縁側に立ちました。

「ミツキちゃん、お母さんは?」

そう聞くと、頭を振ります。

「一人で来たの?」

そう尋ねると、うん、とうなづきます。

「お母さんに、言った?」

だけども、ミツキちゃんはニヤッと笑います。

あぁ、これは言ってないなぁ…と善行さんは思うのです。

「心配しているよ!今度から、お母さんに言ってから来なくちゃ」

そう言うと、不思議そうな顔をします。

「黙って来るなら、猫ちゃんには会わせないよ!」と言うと、

「やだ!」と大きな声を出しました。

(なんだ、声が出るじゃないか…)

善行さんはひそかに思うのですが、それは気づかないふりをします。

いつか慣れてきてくれたら、話をしてくれるかも…という、淡い期待を

持つのです。

ミツキちゃんは、じれったそうな顔をします。

善行さんはあわてて、玄関まで走って行き、妻の履いていたつっかけを

引っ張り出しました。

(孫がいたら、こんなだろうか?)

善行さんは、ふと思います。

こんな愛しい気持ちになるのだろうか?

何だか、暖かな気持ちになりながら、ミツキちゃんの方へ走って行きました。



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