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 若者は、大真面目な顏で善行さんに向かいます。

決してイケメンではないけれど、そこそこ見苦しくない程度に、

整った目鼻立ち。

何より、その笑顔。

おそらくは、今までの人生において、その笑顔で救われてきたに

違いありません。

善行さんは、そう考えます。

笑うと、爽やかな風が吹き抜けるような、そんな感じです。

おそらく今までは、モテ期だったのだろうな…と、息子ほど年の離れた

若者のことを、少し羨ましく思うのです。

「しかし、このスーツケースは、相当に重かっただろうなぁ」

「これには、魂がこもっているんです」

 若者は真剣な目をして、話します。

「どういうことなのですか?」

善行さんが尋ねると、静かにうなづいて、この石にまつわる話を始めました。


「身代わり地蔵って、ありますよね?」

 思いもかけないことが、この若者の口から出るので、少し意外な気持ちで

耳を傾けます。

「まぁ、昔話で、そんなのあったかもしれないね」

というのが、最初の感想です。

何にせよ、気持ちのよい光景ではありません。

 若者は続けて、話し出します。

「よく聞くのは、自分の悪い箇所を撫でると、治るという話ですが、

 ここは少し違うのです。

 ある神社の境内の石に、自分の悪いとこをすりつけて、お供えをすると、

 よくなるという言い伝えがあるのです」

そう言うと、若者はにっこりと笑いました。


 その時控えめに、

「おはようございます!」

という声が、響いてきました。

可愛らしい子供の声です。

「あっ、ミツキちゃん、来たな!」

善行さんはハッと思い出します。

「ちょっと、待っててね!」

そう若者に声をかけると、そそくさと玄関の方へと走りました。






 

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