3

 若者はスーツケースを引っ張り上げると、よっこらしょ!と、横倒しに

します。

巻いていたベルトをほどき、おもむろに開いてみせます。

するとそこには、おびただしい数の石が、詰まっていました。

「えっ?」

一瞬、絶句し、そして、二度見。さらに三度見。

善行さんは、何度も目をこらします。

こんなことを身内に言ったら、

「ついに来たか!}と、認知症扱いされてしまうに違いありません。


 そこには、色とりどりの石が無造作に突っ込まれています。

大きさもバラバラ。

形も、バラバラ。

「これって…石、ですよね?」

思わず、といった体で、聞いてみます。

若者は「そうです」と、これまたあっさりとうなづき、

「どうして…」

思わず口をついて出るのを、

「これが、ボクにとっての、宝物なんです」

嬉しそうに答えます。

一つずつ、愛おしそうに見つめると、

「たかが、石。されど石、なんです」

そう話します。

「これは、みんな違うし、それぞれがそれぞれの良さがあるんです」

キッパリとした口調で、そう言います。


「あのぉ」

 困ったように、善行さんが口を開きます。

「なんでしょう?」

愛想よく、若者は聞きます。

それはあくまでも、さわやかに。

そして、あくまでもさり気ない調子で。

「これ…」

そう言いかけながらも、善行さんは言いよどみます。

あまりにも、若者が自信に満ちた顔をして、堂々としているので、何だか

自分の方がおかしいのか…と、ドギマギしてしまいます。

もしかしたら、これは、普通の石ではないのかもしれない。

もしくは、もしかしたら、特殊な鉱物を含んでいる、とか、光り出すとか、

実は、宝石の原石です、とか…

いや、しかしそうではないだろう…と考えます。

石の形をとっているけれど、カラフルな色使いをしていること。

しかもご丁寧に、絵まで描かれていて、コレが天然である…ということは

あり得ません。

昨今は、こういうのが流行りなのでしょうか?

おそらくこの人が、描いているのに違いありません。

まさか、高名な新進気鋭の芸術家なのでしょうか?

そんなことを考えて、あらためてこの青年の顔をのぞき込むのでした。



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