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「荷物を預かる…といっても、ここはお荷物預り所でも、コインロッカー

 でも、ないんだけどね」

 善行さんは頭をかきつつ、少し不機嫌な顔をしました。

すると若者は、「えっ?」という顔をして、

「おかしいなぁ」と頭をひねります。

 足元には、メタリックブルーのスーツケースが置かれています。

そのスーツケースは、いかにも使い込まれているようで、あちこちにステッカー

が貼られていて、メタリックな胴体は傷だらけです。

空港で貼られる荷物札や、バンドなどが巻かれています。

困った顔をして、その若者が立ち尽くしているので、いかにも場所ふさぎ

です。

掃除をしようと考えていた善行さんは、厄介に考えて、シブシブ声をかけたのです。

「一体、誰から聞いて来たんだい?」

「そこの喫茶店のマスターから」

ホッとしたのか、その若者はチラシを差し出します。

そこには明らかに、善行さんの知らない文面が踊っていました。


『あなたの荷物、あずかります。

 捨てるに捨てられない、思い出の品はありませんか?

 そんな品物を、責任をもって、あずかります』

 とりたてて、問題のなさそうな文面だと思われるのに、それがどうして、

こうなるのか。

 善行さんは、おそるおそる聞いてみます。

「その荷物は、どういったものですか?」

その若者は「おっ!」という顔になります。

「見てくれますか?」

先ほどまでガッカリとしていた顔が、急に生き生きとして、水を得た魚のように

なります。

それを見て、善行さんは内心

(しまった!もしかして、勘違いをさせたかもしれないぞ)

そう思います。

「ま、とりあえず見るだけで…まだ引き取るとは、決まっていませんけどね。

 それとくどいようですが、ここは質屋でもありませんから…念のため」

釘を刺すのを、忘れません。

「やっぱり、そうなんだ…」

またも、シュンとした顔になります。

実にわかりやすい青年だ…と、善行さんはひそかに思います。


「とりあえず、どうぞ」

 いつもの居間に、彼を招き入れると、靴のまま上がろうとします。

「すみません、ここは、土足厳禁なんで」

あわてて声をかけると、

「えっ?今どき?」

呆れた声がかえってきます。

(なんだ、コイツ!

 人んちに、土足でズカズカ入り込む気なのか!)

ムカムカと、怒鳴りつけたくなりますが…

ここは、新しいお客さんになるのかもしれない、とその気持ちを必死で抑えつけて、

苦笑いを浮かべます。

「すみませんねぇ~何分ここは、古い民家なので」

ややぶっきらぼうな口調で話しかけます。

「確かに…ちょっとカッコイイ家ですねぇ」

ポンとそう言って、靴を脱ぎます。

(おっ、わかるのか?)

その言葉に、若者のことを見直したのでした。




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