Case3 始まりは、トラブルとともに

1

 翌朝のことです。

例によって、朝の散歩から戻ると、善行さんはいつものように、みそ汁を

作りつつ、ボスがやって来るのを、待ちかまえていました。

静かにコーヒーをドリップしながら、善行さんは昨日のことを、思い返して

いました。

 あの子(ミツキちゃんだっけ)…

あの子は本当に、ここに来るのだろうか?

ふと、ミツキちゃんの小さな手を、思い出します。

あの後、白猫を善行さんに渡すと、母親に手を引かれて、帰っていきました。

「バイバイ…」

名残惜しそうに、白い猫に手を振って帰って行く姿を見ると、

(面倒なことに、なったなぁ)

そう思うけれども、善行さんの口元はほころんでいます。

実のところ、この状況を楽しんでいるのです。

明日から、(毎日かどうかは、わからないけれど…)ミツキちゃんに会える

ことを、心待ちにしているのです。

これで小さなお客さんが、増えた…ということを、心の底では喜んでいる

のです。

「いやいや…」

そうつぶやきつつ、窓ガラスを開けて、朝の空気を部屋の中に取りこみます。

そうしてのんびりと、静かな朝を楽しんでいると…


「ごめんくださーい!」

 カラカラ…と、引き戸を開ける音がしました。

「おっ!早速、誰かが来たぞ」

幾分明るい気持ちで、玄関先に走って行くと、以前とは別の若者が、そこに

立っていました。

 善行さんは何となく、嫌な予感に襲われます。

それでも中に入るようにと、うながしました。

若者の手には、わら半紙に印刷したチラシが、握られています。

おや、このチラシは?

よっちゃんが、配ってくれたのかな?

などと思いつつ、つい、顔がゆるんできます。

「あのう…ここは、荷物を預かってくれると、聞いてきたんですけど…」

唐突に、若者は口を開きます。

そのいでたちは、真っ黒なTシャツと、膝が破けたような、ボロボロのジーンズ。

髪は、色の抜けたような、薄い色。

決して善行さんは、そういうことに口うるさいタイプではないけれど、

何となく眉をしかめて、その若者を見ました。


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