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 それまで善行さんたちを、玄関の隅にある木の陰で見守っていた

ボスは、おもむろに子猫に近付きました。

子猫は、ボスの方を向きました。

小さな白い猫は、ボスを怖がることなく、近付きます。

「お…!」

善行さんは、その様を見守っています。

女の子も見ています。

子猫はボスに歩み寄ると、ボスはゆっくりと善行さんの脇をすり抜けて、

庭の方へと進んでいきます。

子猫も、それを真似るようにして、ついて行きました。

 善行さんは唖然として、

「入って行った…」とつぶやきます。

「いたいんだって!」

みるみる女の子は、目を輝かせます。

「ここに、いたいんだって!」

さらにミツキちゃんは、声を上げます。

そして、母親の方を向きます。

「捨てなくても、よくなったよ!」

と母親に言います。

母親は苦々しい顔をすると、「そうね…」と答えます。

「でも…」と言うと、横から善行さんが

「ミツキちゃんとの約束ですよね」

少しキツメの声を出しました。

言葉もなく、母親は善行さんをにらみつけました。


「生き物を大切にするということは、大事な教育です。

 その子の人格形成にも、大きく影響しますよね。

 大切にするということは、命を尊ぶということに、なりますよね?

 動物を捨てたりしないで、世話をするということは、その子に

 大きく役立つということです。

 だから、お母さん、認めてあげてください」

 いつになく熱く、善行さんは語りました。

母親はニコリともせずに、

「そんなことを言って…出来ないでしょ?

 毎日お世話するのは、大変なことよ!」

わざと善行さんに背を向けて、ミツキちゃんに言い聞かせます。

ミツキちゃんは大きく目を見開いて、母親にしがみつきます。

「わたし、通う!猫ちゃんのお世話をする!」

たどたどしい言葉で、訴えます。

「いいよね、ママ!ミツキ、がんばるから」

だが母親は険しい顔をして、

「それは、ダメよ。ムリでしょ?」

ミツキちゃんに向かって、言い聞かせる。

さらに善行さんの方を向くと、

「余計なことを…」とつぶやきます。

「大丈夫、きっと、出来る!」

それでもミツキちゃんは、小さな手で、母親の手を引っ張って揺さぶります。

「やりたい!やりたいよ、ママ!」

黙り込んでいる母親に向かい、善行さんも

「させてあげましょうよ」

つられて話しかける。

「それにミツキちゃんが、あんなにやる気になっているんだ。

 やらせてあげましょうよ!」

善行さんはニヤリと笑って、力強く言いました。




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