21
善行さんは口を開きます。
この常識知らずの母親に向かって…ではなく、女の子に向かって。
女の子はジリジリと、玄関のドアに身体を押し付けて、小さくなって
いました。
しっかりと、白い子猫を抱きしめています。
善行さんは、女の子と目が合うようにと、しゃがみ込みます。
女の子は警戒するように、身を丸めます。
女の子が怖がらないようにと、作り笑顔を浮かべます。
「あの猫は、ボスだ。
ボクの飼い猫じゃないけど、こうして遊びに来てるよ。
猫といえど、遊びにくるのは自由だからね」
そう女の子に、笑いかけます。
「だからね、ボクは飼うことはしないけど、遊びに来ることは、止めたり
はしない。
それに、ボスもいるしな」
女の子はボンヤリとして、訳が分からない、という顔をしています。
「それは、どういうことですか?」
女の子の母親は、腕組みをして、善行さんを見下ろしています。
善行さんは、母親に背を向けます。
そうして女の子に向かって
「ミツキちゃんって、言ってたっけ?」と尋ねます。
「ミツキちゃん、この近くに住んでいるの?」
母親はあわてて、女の子の側に駆け寄ります。
「あなた、何を聞いているんですか?
ヤッパリ、変態なんでしょ?」
ずいぶんひどい聞き方をします。
「はっ?」
年かさの者に大して、何を言っているんだ、と呆れます。
「ねぇ、キミ、毎日学校帰りに、ここへ来れる?」
母親にかまわず、女の子に聞きます。
「へ、へ、変態よぉ~!」
声を裏返して、母親が言います。
「ミツキちゃん、この子の世話に通える?」
返事の代わりに、ミツキちゃんはコクンとうなづきました。
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