20

 12時を回る頃、ようやく飲み会がお開きになりました。

なんだかんだ言いつつ、腰軽く、みんなの世話を焼いていた善行さん。

ヤレヤレ…と、やっと腰を落ち着けました。

みんなの食べ散らかしたお皿や、コップ類は、ただ一人残ったよっちゃんが、

手際よく片付けてくれました。

「なぁ、便利屋を止めて、俺と一緒に、居酒屋をしないか?」

思いついたように言うので、

「しない!」

台所に腰を下ろしたまま、即答します。

「あら、そ」

ついでのように答えるけれど、よっちゃんは未練あり気な様子。

どうやら、奥さんとケンカでもしたのでしょうか?

「でも…いいと思うけどなぁ~お前の料理。

 それに、俺の話術。

 酒は、うちの酒のを持ってくるし。

 二人で細々とやって、軌道にのったら、バイトを雇おう」

うっとりとしているよっちゃんは、すっかり妄想の中。

「ベッピンの、若いねーちゃんな!」

善行さんも、よっちゃんの妄想に付き合います。

「う~ん、やっぱり、おっぱいのおっきいお姉ちゃんが、いいなぁ」

「よっ、出ました!オッパイ星人!」

善行さんの合いの手が入ります。

「お前の母ちゃんじゃあ、物足りないのかぁ?」

 へへへ…

悪ガキのように、よっちゃんは楽しそうに笑います。

まるで、学生時代の二人を、思い出しているのでしょうか?

善行さんは椅子に座ったまま、よっちゃんの方を、グルリと首だけ

回しています。

「なぁ」と声をかけると、手際よく勝手知ったる他人の家、

という感じで、よっちゃんはビールをコップについで、持ってきました。

「ん…ありがとう」

よっちゃんは善行さんの向かいの席を引いて、腰を下ろします。

「店の名前な、考えないとダメ?」

「今さら言うか?」

よっちゃんは呆れたように、善行さんの方を向いて、ため息をつきます。

「おまえなぁ~それは一番初めに、決めるもんだろう?」

「そうなのか?」

ふいに善行さんは、よっちゃんの方を向きます。

「なら、おまえ、考えてくれよ!」

「おい、逆切れか?」

よっちゃんは、泡を口を含みながら、善行さんを見詰めます。

「いいじゃないか、『あなたの思い出預かります』(仮)で!」

「ダメだろぉ、それは!」

あっけなくよっちゃんに、ダメ出しされてしまいました。


「で、女の子のことなんだけどな…」

 善行さんは、ごまかすようにつぶやきます。

「ホントは、その場で断るつもりだったんだ」

へへへと笑います。

「なんだって?」

それによっちゃんが、かぶせてきます。

「まさか、おまえ…馬鹿正直に、猫を預かっちゃったのか?

 お人よしにも、ほどがあるぜ!」

まるでイタリア人のように、大げさに首をすくめます。

「まさか!」

善行さんは、軽い調子で笑うと、

「人の話は、最後までよく聞け!」と付け足します。

「はいはい…」

よっちゃんは笑って、ドーゾ、と手招きをします。

改まった様子になり、話の続きを聞く態勢をします。


「あまりにも女の子が泣くんで、母ちゃんは困っちまって、どうにかしろ、

 と言ったんだ。

 だけどボクは、『便利屋でも、ペットショップでも、ペットホテルでも

 ない』と言うと、

 『じゃあ、あの猫はなに?』と言うんだ」

「ほぅ~他にいたのか?」

「ボスだよ!」

「あ、そうか」

「ボスがタイミングよく、フラ~ッと、このタイミングで、女の子の側を

 すり抜けた。

 で、女の子が、『猫ちゃんだ』と言うので、その子の母ちゃんが、

 『あの猫は、ここの猫ですか?』と聞くんだ。

 『違う、厳密に言うとノラだ。

 だが、この辺をフラッと立ち寄る先の一つだ』と答えた。

 なぁ、そうだろ?」

善行さんは、お酒が入ったせいか、いつもよりもよくしゃべっています。

「うむ…」

よっちゃんがうなります。

「そこで『そういう扱いでもいいから、どうにかしてくれ』ときたもんだ。

 困った母ちゃんだ。

 ああいえば、こう言う。

 ダンナの顔が見たいもんだ。

 あんな母親に育てられたら、あの子もきっと、苦労するぞ」

ため息をつく善行さんです。

よっちゃんは、すっかり酔いがさめたようで、

「ゼンコーさんの意見は聞いていない」と言います。

「仕方ないやね。

 とにかく、飼うつもりはないから、そこで一つ提案をした」

そう言うと、ニヤッと笑います。

「なんだと思う?」

「さぁ?」

嫌な予感がして、よっちゃんはトボけた顔をします。

「考えろよ、それくらい考えないと、ボケるぞ」

善行さんは、よっちゃんにズバリと言い切りました。




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