19
「しかしさ、最近便利屋だの、なんでも屋だのに、間違えるお客さんが、
多いんだ…
やっぱりちゃんとした看板が、いるのかな?」
善行さんは、やはり少し気にしているようです。
一体、どうしたというのでしょう。
「そうそう!」
よっちゃんは思い出したように、膝を叩きました。
「美術が得意なアイツに、頼めばいい」
「ついでに、ホームページを作ろうぜ!」
玄関先で、声がしたと思ったら、
「よっ!悪徳地上げ屋のかっちゃん!」
「よっちゃん、おまえ、酔っているのか?」
克也に早速、どつかれています。
「おまえ、年寄りだなぁ~
もう、眠いのか?」
「うるせ~なぁ」
気が付けばいつの間にか、たまり場と化しています。
かっちゃんは、仕事上がりに
「家飲みしようぜ」
本人の確認なしで、よっちゃん発信で、急遽みんなを招集しました。
気の知れた仲間たち。
食べ物は、持ち寄りです。
どこで聞きつけたのか、後から後から人が来て、同窓会状態です。
「おまえさぁ、水臭いぞ」
これは元SEをしていた、幸次郎です。
善行さんを突っつきます。
「何がだい?」
善行さんは、亡くなった奥さんのエプロンを身に着けて、先ほどから
酒のつまみを作らされています。
忙しく動き回りながら、それでもこの家がこんなににぎやかなのは、
何年ぶりだろう…と思いつつ、
「そうだ、去年の今頃…お前のカミサンの葬式でも、集まったなぁ~」
思い思い、好きなようにくっちゃべります。
時折よっちゃんが、酒を取りに家に走ったり
(もちろん後で、請求されましたが)
みんなして、ワイワイザワザワしていると、善行さんは何だか、
このノリは久しぶりだなぁ~と思い、思いっ切り伸びをしました。
「で、店の名前は、どうなった?」
午後からはお客さんもなく、早々に店じまいをして、まだ仮の名前のまま
だったな、と気が付きます。
「俺たちももう、定年なんだなぁ」
「それは、勤め人の言うセリフだろ」
「言えてる!おまえは、酒屋の店主だろ」
「形だけのな」
ははは、と仲間たちが笑います。
「最近は、邪魔者扱いされて、形見が狭いってば!」
場所代もかからない、手近なたまり場が出来た…と喜ぶ仲間たちを横目に、
まぁ、それでもいいか、と思う善行さんです。
串カツを食しつつ、キャベツを親の敵のように刻み続け、
みんなの皿は片付くのに、中々大皿が片付かず、善行さんも食べる間がありません。
しかし、みんなよく食べて飲みます。
「俺たちも、雇ってくれないかぁ?」
思いついたように、幸次郎が口にします。
「なに言ってんだよ!
この貧乏人から、金をもぎ取るくせに!」
善行さんの店のことで、盛り上がっています。
「お前さぁ、店の名前は、大事だぞ!」
かっちゃんが口を開きます。
「それがさぁ、まだ決まっていないんだ」
「メニューも、作ってないのか?」
「何屋だよ」
「看板だって、新しく変わるのに」
「よくもまぁ、これでオープンの前祝いに、集まれたもんだな!」
「勝手に言っとけよ」
仲間たちは、好き放題に言っています。
ちょっと善行さんも、自分の考えが甘かったかなぁ~
などと思います。
ホント言うと、このまま、なし崩し的になるのではないか…
と思わないでもなかったのですが…
仲間たちは、いつまでも、にぎやかな宴を繰り広げていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます