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「しかしさ、最近便利屋だの、なんでも屋だのに、間違えるお客さんが、

 多いんだ…

 やっぱりちゃんとした看板が、いるのかな?」

 善行さんは、やはり少し気にしているようです。

 一体、どうしたというのでしょう。

「そうそう!」

よっちゃんは思い出したように、膝を叩きました。

「美術が得意なアイツに、頼めばいい」

「ついでに、ホームページを作ろうぜ!」

 玄関先で、声がしたと思ったら、

「よっ!悪徳地上げ屋のかっちゃん!」

「よっちゃん、おまえ、酔っているのか?」

克也に早速、どつかれています。

「おまえ、年寄りだなぁ~

 もう、眠いのか?」

「うるせ~なぁ」


 気が付けばいつの間にか、たまり場と化しています。

かっちゃんは、仕事上がりに

「家飲みしようぜ」

本人の確認なしで、よっちゃん発信で、急遽みんなを招集しました。

気の知れた仲間たち。

食べ物は、持ち寄りです。

どこで聞きつけたのか、後から後から人が来て、同窓会状態です。

「おまえさぁ、水臭いぞ」

これは元SEをしていた、幸次郎です。

善行さんを突っつきます。

「何がだい?」

善行さんは、亡くなった奥さんのエプロンを身に着けて、先ほどから

酒のつまみを作らされています。

忙しく動き回りながら、それでもこの家がこんなににぎやかなのは、

何年ぶりだろう…と思いつつ、

「そうだ、去年の今頃…お前のカミサンの葬式でも、集まったなぁ~」

思い思い、好きなようにくっちゃべります。

時折よっちゃんが、酒を取りに家に走ったり

(もちろん後で、請求されましたが)

みんなして、ワイワイザワザワしていると、善行さんは何だか、

このノリは久しぶりだなぁ~と思い、思いっ切り伸びをしました。


「で、店の名前は、どうなった?」

 午後からはお客さんもなく、早々に店じまいをして、まだ仮の名前のまま

だったな、と気が付きます。

「俺たちももう、定年なんだなぁ」

「それは、勤め人の言うセリフだろ」

「言えてる!おまえは、酒屋の店主だろ」

「形だけのな」

ははは、と仲間たちが笑います。

「最近は、邪魔者扱いされて、形見が狭いってば!」

場所代もかからない、手近なたまり場が出来た…と喜ぶ仲間たちを横目に、

まぁ、それでもいいか、と思う善行さんです。

串カツを食しつつ、キャベツを親の敵のように刻み続け、

みんなの皿は片付くのに、中々大皿が片付かず、善行さんも食べる間がありません。

しかし、みんなよく食べて飲みます。

「俺たちも、雇ってくれないかぁ?」

思いついたように、幸次郎が口にします。

「なに言ってんだよ!

 この貧乏人から、金をもぎ取るくせに!」

善行さんの店のことで、盛り上がっています。


「お前さぁ、店の名前は、大事だぞ!」

 かっちゃんが口を開きます。

「それがさぁ、まだ決まっていないんだ」

「メニューも、作ってないのか?」

「何屋だよ」

「看板だって、新しく変わるのに」

「よくもまぁ、これでオープンの前祝いに、集まれたもんだな!」

「勝手に言っとけよ」

仲間たちは、好き放題に言っています。

ちょっと善行さんも、自分の考えが甘かったかなぁ~

などと思います。

ホント言うと、このまま、なし崩し的になるのではないか…

と思わないでもなかったのですが…

仲間たちは、いつまでも、にぎやかな宴を繰り広げていました。





 

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