13

 初めは、近所の子供が遊びに来ているのか、それとも迷子なのか…

と、思っていましたが、どうやら違うようです。

何だか途方に暮れたような、泣き出しそうな、そんな顔です。

こんな朝早くに、一人でいる…ということは、よっぽどの事情が

あるのでしょう。

そぅっと近づくと、その子は引きつった顔をします。

(まいったなぁ~放っておくわけにはいかないし。

 かといって、秘策があるわけでもないし…)

そうつぶやきつつ、善行さんは近付いて行きます。


 通りを渡り、自宅に近付くと、その女の子は、それまでうつむいていた

顔をようやく上げました。

つぶらな瞳の、オカッパ頭の女の子です。

年のころは、4~5歳くらい。

その胸には、フワフワとした生き物を、大事そうに抱えています。

「こんにちは、お嬢さん。

 お嬢さんは、どこの子かな?」

声をかけると、その子はビクンと身体をこわばらせます。

「ごめんねぇ~驚かせちゃったかな?」

やはり、今にも泣き出しそうな顔をするので、善行さんは困ってしまいます。

「オジサンはね、ここの人なんだ。

 お嬢ちゃんは、オウチはどこかな?」

笑顔をひきつらせたまま、かがみ込むと、女の子は泣き出しそうな顔はしても、

それでもその場を動こうとはしません。

こうなったら、もはや返事がかえってくるとは思えずに、さてどうしたものか、

と善行さんは考えます。

「ゴメンネ。オジサンは、決して怖い人じゃあないんだ…

 ここの人なんだけどね、お嬢ちゃんがそこにいると、オウチに入れないんだ…」

への字眉毛を作って、玄関を指差します。

するとようやく、女の子はニコッと笑顔を見せました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る