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 気が付くと、夕暮れが迫ってきていました。

善行さんはとりあえず、表の目印代わりにしている、

《あなたの思い出を預かります》

と書いた小さな黒板を、玄関の中にしまい、門灯に灯りを入れました。

門灯のデザインも、灯篭風で、あくまでも古民家を意識しています。

よっちゃんは、寄り合いに行っていて留守だったので、

これ幸いと善行さんは早じまいを決め込みました。

 とはいえ、初日のお客さんは二人。

新聞効果とはいえ、ゼロではないだけ、マシというものです。

「金じゃないよ、心だろ?」

一人でつぶやくものの、もしもここによっちゃんがいたら、

「何言ってんだ?

 痩せても枯れても、金は天下の周り物だろ?」

と、わけのわからないことを、言うに違いないのです。


 結局預かったのは、翔子さんの荷物だけ…

だけど、預かり物のスペースを、キチンと決めておくべきだった…

しまったなぁ~という思いが、こみ上げてきて、

「何にも、決めていないんだなぁ~」

あらためて、自分の甘さを思い知らされるのでした。

 ボンヤリと、今晩の夕飯は何にしよう?イワシが安かったから、

これを肴に晩酌をしよう…と思っているうちに、

何だかどうでもよくなってきました。

「ま、いいさ。これから時間は、タップリあるんだ」

そう思いつつ、玄関のカギを閉め、中に入ると、縁側で寝ていたボスが、

いつの間にか玄関のたたきに、座りこんでいます。

「起きたか…今晩は、魚だぞ」

善行さんが話しかけると、ニャアと鳴きます。

ほんの少し、心があったかくなる、善行さんなのでした。




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