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「おーい、ゼンコーさん!」

 再度、声が聞こえてきました。

「ゼンコーさん、いるんだろ?」

もうすでに、酔っぱらっているのでしょう。

ヤレヤレと、知らぬふりを決め込んでいたのを、あきらめて立ち上がります。

「たまには、一人にして欲しいよ…ホント…」

ボスはチラッと、薄目を開けます。

それからまた、目をつむって眠り始めます。


 客の正体は…不動産屋の男でした。

「お~おまえは、悪徳地上げ屋の、カッチャンじゃないか!」

思わず善行さんは、声を上げます。

「人聞きの悪いこと、言うなよなぁ~」

眉をひそめて、カッチャンは中に入ってきました。

「どうした?」

善行さんは、カッチャンこと克也に聞きました。

カッチャンはよっちゃんに

「良明、おまえ、ゼンコーさんに言ってないのか?」

そう聞くと、へへへへと笑う者がいます。

(お前たち…まるで高校生みたいだぞ!)

「ゼンコーさん、あんた、なんでも店をするそうだってな!」

「そうなんだよぉ~」

善行さんは、克也を上目遣いで見ます。


「お前さぁ、どこか、いい所はないか?

 格安、掘り出し物で、優良物件がさぁ」

よっちゃんが、克也に挑むようにして、言いつのりました。

「うーん、そうだなぁ」

カッチャンは、考え込みます。

「どんなところが、希望か?」

 そうだなぁ~

今度は、善行さんが考え込む番です。

「出来れば古民家で…これは外せないな…蔵もあって、住むスペースが

 あれば、言うことがないなぁ~

 駅が近い方が、なお、いいなぁ~」

善行さんの言うことに、「ふーん」とカッチャンは考え込みます。

「古民家で、居住スペースがあるところかぁ~

 ちょっと、離れた所になるけど、それはいいか?」

「うーん」

善行さんは、考えます。

「リフォームしてくれると、なおよいけどね」

「そうだなぁ」

少しカッチャンは考え込むと、

「まぁ、探してみるわ。

 ちょっと、時間をもらってもいい」

サラリとそう返します。

「それは、もちろん!」

 善行さんは、少し自分の夢が現実に近付くようで、嬉しくなります。

「しかし…脱サラまでして、便利屋とは、おまえも物好きだねぇ」

ハハッと克也が笑います。

「だから!脱サラじゃなくて、定年なんだってば!」

善行さんの脇から、よっちゃんが口をはさみます。

「違う!便利屋じゃなくて、預かり屋だってば!」

「ゼンコーさん、あんた…」

よっちゃんが、声を張り上げます。

「まずは、店の名前を考えないと!」

「たしかに…」

善行さんは、うなづきました。




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