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「ゼンコーさん!」
よっちゃんはそれでも、善行さんの肩をガシッと、ホールドします。
「大丈夫だからな!」
なぜか善行さんの顔を、うるんだ目で見つめます。
「な、なにが?」
オッサンの涙なんて、気持ち悪いぞ。
若干善行さんの顔が、引きつっています。
「お、オレが、奥さんの代わりに、ずっと側にいるからな!」
ガシガシと、善行さんの身体を揺すりました。
善行さんはアワアワ言いながら、よっちゃんの手から逃れようと、身を
よじりました。
「何だったら、いい女を紹介しようか?」
「よっちゃん!」
善行さんは呆れて、よっちゃんの口を封じようとします。
「それは、少し、違うんだなぁ」
憐れむように見ると、もう一度、
「時間は、大丈夫?」と聞きました。
よっちゃんはさすがにマズイと、あわてて飛び出して行くと、
善行さんはようやく、ホッと一息つくと、居間の座椅子に腰を下ろします。
よっちゃんがいなくなると、さすがに静かになりました。
小鳥のざわめきと、風の音。車の音…
食べ物屋さんからは、美味しそうな匂いが漂ってきています。
善行さんは、少し空腹を感じて、コーヒーを入れ直しました。
しばらく、台所仕事に専念していると、縁側の方で、カタンと物音がします。
ガスを消すと、音のした方に向かいます。
いつの間にか、またボスが戻って来て、お決まりの場所で丸くなっています。
「おや、戻ってきたのかい?」
善行さんは縁側に置いてある、今は亡き奥さんの座布団に、丸くなります。
「ボス、おまえ、うちの奥さんのこと…覚えているかい?」
ボスはチラッと見た後、前足をなめた後、また丸くなって目をつむります。
「ボス、おまえ、奥さんのことが好きだったもんなぁ~」
ボスは今度は、チラとも見ずに、眠ってしまう。
「ボス…おまえ、うちの奥さんのこと、見えるかい?
いいなぁ~ボクは見たいけど、見えないんだ…
もしも見えたら、話をしたい。
話すことが、一杯あるんだ…」
善行さんはボスの傍らに座り込み、ボスの背中に撫でてみました。
ボスは気にすることなく、余裕な落ち着いた顔をして、片耳を時折ピクッと
した後、また眠り続けます。
その時、
「おーい、ゼンコーさん!」
という声が、聞こえてきました。
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