6

 若者は風呂敷包みを持って、ペコリと頭を下げると、おとなしく店から

出て行きました。

先ほどまでの騒ぎと、翔子さんが来てからずっと、人の気配があったので、

それがなくなった途端、シンと静まり返りました。

そうして静かな一軒家の、のどかな昼下がりの風景が、夢から覚めたように

広がってきました。


「一体、何だったんだろうな」

 よっちゃんと善行さんは、力が抜けて、手近な椅子に座り込みました。

「さっきのお兄ちゃん、ちゃんと皿を返すと思うか?」

よっちゃんが、ふと、聞いてきました。

「そうだなぁ」

善行さんは玄関の方を振り返ると、

「返さないかもしれないなぁ~」とつぶやきます。

「どうして?」

「だってなぁ」

善行さんはよっちゃんを見て、笑います。

「さっきあの子、血相変えて飛び込んで来ただろ?

 …ということは、お金に困っているか、もしくは必要に迫られての

 ことだと思うよ。

 大体、嫌がらせにしたって、人づてに調べれば、見つかるに決まってる。

 闇のルートでもない限り。

 ならば手っ取り早く、売って、お金に変えた方が身軽だし、言い訳もたつ。

 そこまで、見越したのかは知らないけれど、ま、金が欲しいんだろうな」

 いつになく、饒舌に語る善行さんを見て、よっちゃんはなるほど、と

うなづきました。


 それから何気なく、柱時計を見て、

「あの時計、遅れているのか?」と聞きます。

「いや、ほぼ正確だ」

見ると、3時を少し回っています。

「あっ、しまった!のんびりし過ぎた!」

あわててよっちゃんが、立ち上がります。

「どうした?」

「これから、寄り合いに行かないといけないんだった」

「寄り合いって、なんの?」

「えっ?ゼンコーさん、忘れたのか?

 月に一度の集まりだよ。

 どうせ、夏祭りをどうするかとか、夜回りの話とかだろ」

よっちゃんは、セカセカとした口調で返す。

「夜回り?」

へっ、と善行さんはキョトンとします。

「おいおい、しっかりしてくれよぉ」

よっちゃんが呆れた顔をして、見返します。

それからようやく、「あっ、そんなこともあったかぁ」と思い出します。

「おまえ、つい最近まで、サラリーマンをしてたから、知らないんだよな?」

「あぁ、そうだよ。郵便局員だったけどな」と言うと、

「時にゼンコーさん、おまえさん何で、店をしようと思ったの?」

ふいに思いついたようにして、よっちゃんが尋ねました。


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