5

 若者が畳に、座り込みます。

「茶、飲むか?」

うってかわって、善行さんは優しい声を出しました。

「へっ?」

若者はボンヤリとして、彼を見上げます。

風呂敷を、膝の上に乗せると、

「あのババアは、シブチンなんだ」

ボソッと、若者はつぶやきます。

よっちゃんは「ほぅ…」と言いつつ、彼の側に座って、顔をのぞき込みます。

若者はチラッと、よっちゃんを見ると

「聞いてくれよ」と唐突に話しかけます。

よっちゃんは黙って、彼の目をのぞき込んでいます。


「ばあさんが去年の暮れに、亡くなったんだ。

 おとなしくて、優しいばあさんだった。

 葬式が済んで、四十九日を終えて、ようやく落ち着いたところで、

 遺産の話し合いになったんだ。

 ま、ばあさんの世話をしてたのは、ババアだったから、ババアに

ほとんどもっていかれるのは、理解できる。

 でもまぁ、親戚のオジサン、オバサンには、雀の涙なんだ。

 ババアの言い分は、こうだ。

『私はこの10年間、仕事をやめて、おばあちゃんの世話を貯金を切り

 崩してまで、一生懸命やってきた。

 あの人たちはたまに来るだけで、ろくに手伝いもしなかった。

 これはいわゆる、ご褒美みたいなものよ』

 そう言って、着物や金目の物、ほとんど全部、自分で取ったんだ。

 もちろん遺言のあったものは、おとなしく、それぞれ渡してたけど。

 オレには、ほとんどナシさ。

 そりゃあまぁ、わかるけどさ。

 親戚で男手といったら、オレ一人なんだ。

 頭にきて、ババアが床の間に飾っていたこの皿を、奪って逃げたんだ」

そう言うと、例の古伊万里を眺めます。

「実際に、瀬戸物って、物によっては、何十万もするんじゃないか?

 だから、あわよくば…という思いはあったしな。

 だけどまぁ、そうだよなぁ」

自分で自問自答しているようで、淡々とそう言ってのけると、善行さんの

方を向いて、

「まぁ、ダメ元で、骨董品屋に行ってみます」

ペコリと頭を下げました。

よっちゃんも、

「それがいい」とうなづきます。

善行さんは、何だか複雑な顏をしていました。

 

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