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「うちは、骨董品店じゃあないから、買い取りはしません」

 さらに善行さんが言います。

「そうそう、よそを当たって!」

続けてよっちゃんが言います。

「なんだぁ?」

若者は、大きな声で二人に向かってわめきます。

「買い取らないとは、どういうことなんだ?

 広告には、『思い出の品、預かります』って書いてあったじゃないか!」

やれやれ。

善行さんは、ため息をつきます。

また、一から説明しないといけないのか、と。


「ですからね、形見の品とか…思い出の品で、捨てられない物を、預かる

 んですよね」

それでも善行さんが、静かに説明すると、

「へっ?そんなこと、聞いてないぞ」

難癖をつけるように、叫びます。

(そりゃ、そうだろ。言ってはいない。書いてあるだけだ)

心の中で、善行さんが突っ込みます。

「それじゃあ、誰の許可ももらわずに、持ってきたということですね?」

 ダメじゃないか、と思いつつも、どうにか顔にはださず、極めて静かな口調で

続けます。

「そりゃ、そうだろうよ」

だけどもすっかり、興味を失った…という声で、若者は答えます。

「それだったら、自分の家のものだ、という証拠にはなりませんね。

 悪いけど、警察に通報させていただきます」

あくまでも事務的に、そう告げたけれども…

「ちょ、ちょっと、待てよ!」

 どうしてそうなるんだ、と若者が慌てます。

「もしかして、疑っているのか?自分の家の物なのに?

 何だったら、ババアに電話をしてもいいぜ!」

強がりなのか、口調はまだ横柄なままです。

「お宅、未成年なんでしょ?

 ご自宅に、確認の連絡はさせて頂きます」

そう切り出すと、若者はガクンと肩を落とし、観念したようにおとなしく

なりました。


「わかったよ」

 あきらめたのか、若者は皿を乱暴に、風呂敷に包みなおしました。

そして、善行さんとよっちゃんをにらみつけます。

「なに、気取っちゃっているんだよ!

 客商売なんだろ?

 お客の言う通りに、すればいいんだよ!」

再び怒りがこみあげてきたのか、よっちゃんに顔をグィッと近づけると、

唾が飛び散りそうな勢いで、ねめつめるようにします。

「通報するのか?

 すればいいじゃないか。

 こっちは、後ろ暗いことなんて、何にもしていないんだよ!」

話しているうちに、さらに感情が爆発したようで、近くにある椅子を蹴飛ばしたり、

棚の上のチラシを、叩き落しました。

はらはらと、紙の束が降り注ぎます。

 これには、善行さんも、ガマンの限界でした。

ガシッと若者の腕を押さえ込むと、

「よっちゃん、警察に電話!

 営業妨害で、逮捕してもらおう」

キッパリとした声で言うと、動かないように、しっかりと押さえつけます。

若者は身動き一つ、かないません。

それもそのはず。

善行さんは、若い頃には、県大会に優勝した経歴の持ち主なのです。

もがこうとしても、がっちりとホールドされたまま、緩むどころか、さらにしっかりと押さえ込まれます。

「わかった、わかったよ。帰るよ」

若者が、悲鳴のような声を上げます。

善行さんは無言のまま、ゆっくりとその手を外すと…

若者はヨロヨロしながら、ようやくその場に座り込みました。


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