Case2 ここは、便利屋じゃない!

1

「すみませーん、ここで、荷物を預かってくれる、と聞いたんですけど」

 もう一度、玄関先で声がしました。

善行さんは「はいはい」と言いながら、あわてて玄関に走ります。

「呼び鈴を鳴らせばいいのになぁ」

ブツブツと、文句が口からついて出ます。

ミシミシと床を鳴らしながら行ってみると、ガラス戸の向こうに、

ヒョロッとしたシルエットが見えました。


 あわててサンダルをつっかけて、引き戸を開けると、そこに立っていたのは、

少しボサボサ頭の、ドロンとした目つきの若者でした。

「どんな物でも、いいんですよね?」

その若者は右手に風呂敷包みを持っていて、それがあまりにも、彼には似つかわ

しくなくて、余計に胡散臭さを感じさせました。

さらにしきりと、彼は目をキョロキョロとさせて、落ち着きのない様子。

ますます、この若者のことを怪しく感じて、いざとなったら、よっちゃんに

三軒先の交番に、ひとっ走りしてもらおう…

と、考えを巡らせていました。

 そんなことを考えて、しばらく対面すること数秒。

「まぁ、玄関先でもなんだから、中に入ってもらったら?」

またも背中の方から、声がします。

「おい、なんで、そんなところにいるんだ?」

思わず大きな声が出ます。

振り向くと、よっちゃんが上がり框(かまち)のところから、のそっと顔を

のぞかせていたのです。

善行さんは、苦虫を嚙み潰したように、思いっきり顔をしかめると、

当のよっちゃんは、相変わらずヘラヘラと笑っておりました。


「ここの店…わかりにくくて」

 言い訳のように、ボソボソと、その若者が善行さんに向かって話しかけて

います。

善行さんは黙ったまま、とりあえず居間へと、案内しました。

「…看板…ないんですね」

やはり、ボソボソと、口の中で声を出します。

「でも、表札はあっただろ」

ブスッとして、答えます。

 確かに例のチラシには、略図しか載せてはいません。

最寄り駅と、目立つショッピングモールと、郵便局。

これを目安に、適当に道筋を描いた簡単な地図です。

「番地だってあるだろ?

 だから、わかると思ったんだ」

善行さんは、言い訳がましくそう言います。

それでも、商店街を抜けたところから、鈴木という家を探すのが、わかり

にくかったらしい。

そういえば、この前来た翔子さんも、交番で聞いた、と言っていました。

「で、お宅は、どうして来たんだ?」

それでも一応尋ねると、

「グーグルマップで検索したら、たまたま見つけたんだ。

 他にも鈴木さんという家はあったけど…番地がわかっていたから」

やや得意そうに答えます。

だけど、若者の目が笑ってはいないので、善行さんは何となく、イヤな空気を

感じています。

(コイツ…何しに来たのだろう?)

チラシを出すと、こういう面白がる人間も、出てくるのかもしれない…

善行さんは、思わず舌打ちをしたくなります。

 どう見ても、普通の民家の表札のところに、

《あなたの思い出を預かります。鈴木》

と、かまぼこ板に書いたものを、ぶら下げているだけなのですから…

「お兄さん、すみませんねぇ~

 近々キチンとするつもりなんで。

 何せこの人、シロートなもんで、なーんもわかっちゃあいないんです」

よっちゃんが、愛想よく、若者に向かって言います。

「余計なことは、言わなくていい」

善行さんは、思いっきり、よっちゃんの顔をジロリとにらみつけました。



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