13
「とりあえず、近々、倉庫なり、どこか借りないとなぁ」
台所で洗い物をしつつ、善行さんは言いました。
「入らなくなったら、困る」とよっちゃん。
先ほどから、黒猫のボスと遊んでいます。
「そうなれば、いいんだけどな…
全然来ないかもしれないんだぞ」
手際よく、台所の油汚れも、スポンジに研磨剤をつけて、ゴシゴシ
磨いています。
奥さんを亡くしてから、本当にまめに、掃除をするようになったのです。
今は、男やもめの身の上。
一人でも生きていけるようにと、奥さんに仕込まれたおかげで、一人でも
なんなくこなせるようになりました。
「電話の問い合わせとか来たら、どうする?」
「とりあえず、携帯番号を書いておいたから、増えてきたら、電話番を雇おうか?」
「そうそう、きれいなお姉ちゃんとかがいいなぁ」
この時ばかりは、ご機嫌なよっちゃんです。
「ということは、ボスが看板猫だな!」
「いやいや、ボスは招き猫だろ!」
二人は顔を見合わせて、笑っている。
「俺、アイツに、声をかけといたぞ!」
よっちゃんは、おもむろに立ち上がり、ボスはひらりと身体をひるがえすと、部屋の
隅に走って逃げました。
「ん?だれだ?」
すると、ササッとタブレットを駆使して、どこぞのホームページを開く。
「コイツ。知ってるか?克也」
ホームページの画面には、にこやかに微笑む男性の顔写真がある。
「お、おう!悪徳地上げ王のかっちゃんだな!」
「そう言うなよ、本人が怒るぞぉ」
よっちゃんが、のんびりとした口調で、楽しそうにしゃべっている。
「かっちゃんが、どうしたんだ?」
「アイツな、都会でリーマンをやっていたんだが、オヤジが身体を壊して、
急遽ユーターンして、不動産屋をついでいるんだってよ!」
そう言って、善行さんにタブレットで示してくれました。
「いいなぁ~土地ころがしかぁ」
善行さんは、ため息のように、つぶやきました。
「それを言うなよ。なんでも、アパマンと連携して、そこそこ小金を稼いで
いるようだ」
ほーっ。
二人はそろって、「いいなぁ~」と、羨ましそうに空を眺めます。
「金かぁ~やっぱり、欲しいなぁ」
ポーっとした顔で、よっちゃんが言います。
「うん、そうだな」
うなづく善行さんです。
その時、ピンポーンと、呼び鈴が鳴る音がします。
普段は、郵便屋か、宅配か、たまに集金の人しか、この家には来ません。
また、誰か来たようです。
「今度は、何か来たのかなぁ?」
すると、声が聞えてきます。
「すみませーん。ここで、荷物を預かってくれる。と聞いたんですけど…」
おやおや?
また、新しい思い出の品が届いたようです。
善行さんは、よっちゃんと顔を見合わせます。
「はいはい」
善行さんは、立ち上がります。
よっちゃんは涼しい顔をして、カップを口元に運びました。
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