12

「何にも、決まってなかったんだな!」

 呆れたように、よっちゃんが口を割りました。

「仕方がないだろ…」

善行さんは、そうつぶやきます。

「だって、プランを言ったら、ドンドン話が進んじゃって、こっちが

 追いつかなくなったんだから。だけどな」

それでも善行さんは、何だか楽しそうです。

「一刻も早く、実現させてみたかったんだ。

 何はともあれ、まずは知ってもらわないと、お話にはならないからな」

少しでも、早くね!

そう善行さんが話すのを、よっちゃんはふんふんと聞きながら、

「甘いな。それは実に、甘いよ!」

笑いながら、彼を見ます。

「せめて下準備が済んで、明日にでもオープン可能な状態にでも、持って

 いってからでないと!」

珍しく、しごく真っ当なことを言います。

「それにしても、広告を出すのが、早いんじゃないか?」

「宣伝しろ、と言ったのは、お前だろ」

「だから、いつもツメが甘いと、言っているだろ?

 ちゃんと最後まで、力を抜くなって!」

よっちゃんは力強く、善行さんの背中を押しました。


「おっと、忘れるところだった」

 善行さんはおもむろに、お手製の《預り証》を差し出します。

一応念のために、名前と住所、年齢、電話番号を記入してもらうのです。

「処分する気になったり、逆に心境の変化があったら、遠慮なく取りに

 いらっしゃい」

翔子さんに向かって言います。

預かり金は、実はまだ、決めてはいなかったけれど…

(後で、散々よっちゃんに突っ込まれることになるのだけれど)

一件につき、500円もらうことにしました。

「高いんだか、安いんだか!」

「まぁ、高いコインロッカーかな?

 いや、期日なしとしたら、やっぱり安いもんだよ」

なぜかよっちゃんは、感心しています。

「なんせ、相場を知らないからなぁ~わからんな」

善行さんは、腕組みをしました。


「ありがとう」

 翔子さんはにっこりと微笑むと、背を向けました。

すると善行さんが珍しく

「気が向いたら、いつでも、来てくれてかまわないんだよ」

と、胸を張ります。

「そうね」

短くそう言うと、彼女は帰って行きました。

 

 二人の前には、翔子さんの置いていった、デパートの袋と、

食べ残しのチーズケーキ。

空のカップと、預かった袋が残されています。

「どうする?このまま」

よっちゃんが、自分の相棒を見ます。

だが善行さんは、今のところは、何も思いつきません。

テーブルの上には、少しパサついてきたチーズケーキが残されています。

「とりあえずもう一杯、コーヒーを飲むか?」

仕方なく、善行が聞きます。

よっちゃんが無言でうなづくので、おもむろに立ち上がります。

「それ、食うか?」

だがよっちゃんが頭を振るので、サランラップをかけて、冷蔵庫に

仕舞いました。


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