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善行さんは翔子さんを、じぃっと見つめました。
少し寂しそうに、目を伏せて、彼女はボスを抱き上げました。
善行さんにさえ、あまり触らせてくれないというのに、翔子さん
にはまったく違和感なく、されるがままです。
(おまえ、ツンデレなのか?)
善行さんは、ふとそう思います。
(やはり、女性が好きなのか?)
彼はほんの少し、羨ましく思うのです。
「猫の扱いが、慣れていますね」
善行さんがそう声をかけると、
「それは、実家で飼ってましたからね」
今度はすんなりと、答えました。
「そういうお仕事なのかと、思いましたよ」
観察するように、翔子さんを見詰めます。
「そういう仕事って?」
すぐに彼女が切り返して、挑むように善行さんを見詰めます。
う…
彼は言葉を詰まらせ、咳ばらいをして、態勢を整えます。
「看護師さんとか、お医者さんとか、獣医さんとか?」
善行さんの問いかけに、いちいち頭を振って、否定します。
「それとも、ペットショップで働いているとか?」
翔子さんの反応は、薄いのです。
「または…猫カフェ?保護猫?」
その一言を耳にすると、翔子さんは大爆笑します。
正直、そこまでウケてくれるとは、思っていなかったので、
苦笑いをする善行さんです。
「ところで、仕事の方はお休みなんですか?」
さり気なく、善行さんが尋ねると、彼女はにっこりと微笑み
「もともと在宅でも、出来るんですけど…それだとホントに、
引きこもりになりそうで…
今は、バンバンバンバン有休を使ってやろうと、開き直ったんですよ!
逆にね!」
善行さんは、ニッコリと笑います。
「だけど、そろそろヤバイかな?と思うんです。
イヤでも、写真が目に入るし…それですっかり、やる気がなくなるんです。
だから、思い切って捨ててしまえ、と思うのに…
いざ、ゴミ袋に入れようとすると、
これは果たして、燃えるゴミでいいのか?
新聞雑誌で、出さなくてもいいのか?
とか、考え出すと、もうダメで…
そんな時に、新聞広告が目に入ったんです。
《あなたの思い出、預かります)って」
翔子さんは伏し目がちになりながらも、ボスをずっと抱いていました。
どうやらボスは、寝ているようです。
「ところで、預かってもらえますか?」
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