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翔子さんの言葉に、善行とよっちゃんは顔を見合わせ、神妙な顔になり
ました。
シン…とした空気になり、ただカチコチと時を刻む時計の針と、先ほどから
縁側をカリカリと音を立てて、窓を開けようとする、ボスの爪を立てる音しか、
聞こえてきません。
ゴクリ…とツバを飲み込み、おもむろに口を開いたのは、またしてもよっちゃん
です。
「今まで、どうしてたんですか?」
オズオズと尋ねます。
「買い物とか…」
上目遣いで、翔子さんをのぞき見ると、翔子さんはニコリと笑い、
「最近は、便利ですねぇ~外に出なくても、買い物が出来るんですから」
明るく言いました。
「えっ?」
若い女性のひと言に、唖然として固まる60男たちです。
「何ですか、それ?」
この男の心臓は鋼並みだ。
この時ばかりは、善行はよっちゃんのことを見直しました。
知らないんですか、と言う顔を彼女はして、
「インターネットでお買い物をしたら、配達もしてもらえるんです。
カードでお支払いだし、ホント、外に出なくても、生活が出来ちゃうん
ですねぇ」
翔子さんは、ニコニコしました。
「ほう」
男たちは感心して、うなづくのみです。
「知ってたか?」
「知らない」
二人は小声で確認し合い、
「俺らって、時代に取り残されているんだな…」と、しんみりしました。
その時、にゃあ~と切羽詰まった声がして、二人は顔を見合わせました。
「なんだ?」と、よっちゃん。
「たぶん、ボスだ」と、善行。
「どうしたんでしょうね」と、翔子さん。
すると「あっ!」と善行は立ち上がると、あわてて縁側の方に、回ります。
何やら、バタバタガタガタ、ガラス戸が揺れています。
よく見ると、ボスが窓の隙間を激しくガリガリして、鳴いている。
「お前、どうしたんだ?」
善行さんはあわてて、窓に走りよると、ガタピシ音を立てながら、窓ガラス
を開けようとしました。
「おーい、どうした?」
よっちゃんがのどかな声を出して、のっそりと姿を見せました。
「おい、丁度よかった。手伝え!」
善行は、手招きをしました。
ボスは警戒して、うなり声をあげます。
「大丈夫だから…」
なだめるような声を出します。
「そうそう」
よっちゃんが近づいて来ると、
「ゼンコーさんの友達だよ!」
大きな声を上げると、
「腐れ縁のな」
かぶせるようにして言います。
「あらまぁ、かわいそうに!」
突然、後ろから声がすると、翔子さんがよっちゃんの後ろから、顔を
のぞかせます。
ガタガタと、よっちゃんが窓を揺らします。
「おい、えらい建付けが悪いなぁ~」
翔子さんはおもむろに、洗面台から石鹸を取ってきて、ガラス戸の桟に
塗りつけます。
「ロウの方が、いいんだろうけどねぇ…」
そう言いつつ、
「開けてみて」と話しかけます。
すると比較的簡単に、開きました。
「おっ、よく見つけたねぇ」
感心したように、善行は翔子さんを見ます。
翔子さんは照れたように後ずさりして、
「勝手に入って、ごめんなさい」
小さな声で言いました。
その間にボスは、スルッと中に入り込むと、善行の座布団に座り込み、
前足を器用になめ始めました。
「やっぱり、改装しないとダメだな」
「ここで、始めるつもりだったのか?」
善行に向かって、よっちゃんが聞く。
「うん、やっぱダメか?」と聞きます。
「ダメじゃないけどねぇ」
さっと立ち上がると、う~んとうなります。
「狭くないか?預かり屋なんだろ?」
と言うと、
「せめて納屋か蔵でもあればなぁ~」
よっちゃんが返します。
「悪かったな!
どこか安くて、よい物件を探してくれよぉ。
ついでに、住めるところをな!」
善行のひと言に、ありゃあ~とよっちゃんは大げさに手を広げて、
部屋の中を見回すと、
「待ってくれよ。心当たりを聞いてみるわ」
そうひと言言いおいて、部屋を出て行きました。
翔子さんはボスの前にしゃがみ込むと、頭をなでています。
ボスは珍しく怒ったりはしません。
されるがまま、喉を鳴らしています。
「おや!」
善行は、目を見張りました。
「コイツは、人に心を許さないのに!」
翔子さんは、「そうですかぁ」と言いつつ、慣れた仕草でボスに触れています。
「コイツ、賢いんだな…猫好きな人がわかるんだ」
感心したように、翔子さんを見ていました。
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